愛知の文学

鳴見絞屋迷惑

作品書名時代地域
鳴見絞屋迷惑
(なるみしぼりやめいわく)
東海道中膝栗毛
(とうかいどうちゅうひざくりげ)
江戸時代 名古屋市緑区
刈谷市・知立市
豊明市
  • 笠寺観音
    (名古屋市南区笠覆寺)

『東海道中膝栗毛』は,十返舎一九(じっぺんしゃいっく)が書いた,江戸時代後期の滑稽(こっけい)本で,伊勢詣(いせもう)でを目指す自称江戸っ子の弥次郎兵衛(やじろべえ)と北八(喜多八,きたはち)の東海道中記である。二人のしでかす失敗が屁理屈(へりくつ)や駄洒落(だじゃれ)を盛りこんだ会話体で書かれ,旅人や街道筋(かいどうすじ)の人間模様が狂歌をはさんで滑稽に描き出されている。初版本は,初編から8編までに発端を加えて18冊。1802年から1809年に刊行。大好評を得て,続編が後20年にわたって出された。愛知については,4編上下に,表題の「鳴見絞屋迷惑」など12話がある。

作品

弥次郎兵衛と北八は,今岡村(刈谷市今岡町),あなふ村(豊明市阿野町),落合村(豊明市前後町)を過ぎて有松(名古屋市緑区有松町)に着いた。
有松絞り(しぼりぞめ)の店があったので,金もないのにひやかしてやろうと店先で将棋(しょうぎ)をさしている店主に話しかける。店主は将棋に夢中でとりあってくれないが,ふとお客だと気づく。さんざん高価な絞りの値段を尋ねたあげく,安い手ぬぐいを買う。
鳴海(名古屋市緑区鳴海町,ここも絞りで有名)に着いて,

旅人のいそげば汗に鳴海がた ここもしぼりの名物なれば

〈訳〉旅人が道を急ぐとびっしょり汗になる,そこを鳴海と名づけるのも絞りの名物なのでもっともだ。

と歌をよんだ。さらに(天白川にかかる)田畠橋を渡り,笠寺観音に着いた。笠をお載せになった木の仏なのでこの名がついたといわれている。

執着(しうぢゃく)のなみだの雨に濡(ぬ)れじとや かさをめしたるくはんをんの像

〈訳〉参詣の人の執着心から流す涙の雨に濡れまいと思われてか,この観音像は笠をお載せになっているよ。

将棋に夢中な店主とのやりとりなどが,駄洒落(だじゃれ)の連発で面白い。