愛知の文学

十六夜日記

作品時代地域
十六夜日記(いざよいにっき) 鎌倉・室町時代 名古屋市緑区
知立市

晩年になり,阿仏尼(あぶつに)は夫為家(ためいえ)の死後三年目に,実子の為相(ためすけ)と御子左家(みこひだりけ)宗家を継いだ為氏(ためうじ)とが相続争いをした播磨(はりま)細川荘の領地をめぐり,訴訟(そしょう)のため鎌倉に下る。その途中に,かつて旅した「鳴海の浦」と「八橋」を訪れる。

作品

鳴海の浦で,(『伊勢物語』にあるように)隅田川(すみだがわ)にいると聞いた都鳥(みやこどり)がこの浦にもいた。

言問(ここと)はむはしと脚(あし)とはあかざりしわが来(こ)し方の都鳥かと

〈訳〉たずねてみよう。くちばしと足とが赤いあの鳥は,私が名残惜しく別れてきた都の名を冠する,あの都鳥かと。

八橋で暗くなって橋も見えなくなって。

ささがにの蜘蛛手(くもで)あやふき八橋を夕暮れかけて渡りかねつる

〈訳〉クモの脚のように八方に分かれて危うい八橋を,夕暮れになりかけて,ますます渡るに渡れなかったよ。