愛知の文学

古今著聞集

作品書名時代
相撲人(すまいびと)おこま権(ごん)の守(かみ)
<おこま権の守,馬の足を損ずる事>
古今著聞集
(こきんちょもんじゅう)
鎌倉・室町時代

『古今著聞集』は建長6(1254)年に成立した説話集で,王朝文化追慕(ついぼ)のために編集されたと考えられる。平安時代の相撲人(力士)説話は,武家の武勇説話と一線を画(かく)する。「強力(ごうりき)」が前世の善行の応報(おうほう)で,神意の宿る技能と考えられたからである。日本各地から数多くの力士を召し出した宮中での相撲(すまい)の節会(せちえ)は平安時代末に絶えるが,そこで抜きん出た能力を発揮(はっき)した者は「尋常(じんじょう)ならざる人」であり,また,都人の羨望(せんぼう)を一身に集める存在であった。「おこま権の守」は尾張(おわり)から召し出された相撲人で,傍若無人(ぼうじゃくぶじん)の振る舞いをしても,屈託(くったく)なく,明るい,典型的な「相撲人」である。

巻十に十三話載せられた相撲強力説話も,相撲の盛時を追想するねらいがあったと考えられる。

作品

おこま権の守(ごんのかみ)は若かった時,都で宮仕えをしていた。ある時,内裏(だいり)に参上するのに遅れてしまった。整列する馬車で身動きできないので,かき分けていくとある馬の世話をする者が,「けがをするぞ。この馬は人をける」と注意し前を開けなかった。
おこまは,わざと馬の尻(しり)に触れるように通ると,案の定,馬はおこまの腰のあたりをけった。しかし,おこまは少しも動ぜず,馬の方が足にけがをし横たわってしまった。強さはけたちがいであった。