愛知の文学

今昔物語集

作品書名時代地域
定基の出家
(さだもとのしゅっけ)
今昔物語集
(こんじゃくものがたりしゅう)
平安時代 豊川市

『今昔物語集』は平安時代後半,既に院政期と呼ばれる時期に成立し整然と組織された一千余の説話から成る。現世を仏法の示す理想の世界と見立て,人々の姿を写し出そうという意図を持つ。
この説話の主人公大江定基は実在の人物である。寛和2(986)年に出家し,法名を寂照(じゃくしょう)という。彼は,聖地巡礼のために宋に渡り,二度と日本にもどってこなかった。典型的な求道僧(ぐどうそう)としての伝承が数多く残り,表題の話は,その中でも人情の機微を感じさせる。

作品

三河の守(みかわのかみ)に任じられた定基は,赴任(ふにん)した三河で愛する女性を病気で亡くし泣く泣く埋葬(まいそう)した。そしてこの世にはかなさを感じ仏の道を修めようと思った。
そうこうしていると,国人が祭りのためにイノシシを捕らえ生きたまま調理した。また,キジを生きたまま持って来て食べた。定基は大声で泣き,国府(豊川市)を出て京に帰ってしまった。そして出家の決心が固まったので,髪を落として出家した。
当時の地方の国人の生活が主人公定基と対置され強い印象を読者に与えている。