愛知の文学

東下り

作品書名地域
東下り(あずまくだり) 伊勢物語(いせものがたり) 知立市
  • 「東下り」の故地をしのばせる
    かきつばた群落
    (刈谷市,小堤西池)

『伊勢物語』は在原業平(ありわらのなりひら)と思われる男の情熱的な振る舞い「いちはやきみやび」を描き出す珠玉の小話から成っている。「むかし,男ありけり」ではじまる小話を重ね合わせることにより主人公の愛の一生を見事に物語っている。この魅力から『伊勢物語』は数多い日本の古典のなかで最も多くの読者を得た作品の一つになっている。

この「東下り」の段は失意の中で東国への旅に出た主人公が難渋(なんじゅう)しながらもようやく三河(みかわ)の八橋(やつはし)に着き,あたりの湿地帯に群生する美しいかきつばたの花を見て,都に残してきた最愛の妻を思い,都での妻との生活を思い返し,遠くまでやってきたこの旅を悲しく思う場面である。このなかの歌は非常に素直に思いを詠(よ)み上げたものであるが,一方,和歌の修辞技巧の限りを尽くしたものともなっている。愛知の県花かきつばたの由来ともなっており,郷土と最も関連のある古典である。