愛知の文学

尾張の大力の女

作品書名時代地域
尾張の大力の女
(おわりのおおぢからのおんな)
日本霊異記(にほんりょういき) 奈良時代以前 稲沢市

『日本霊異記』は弘仁13(822)年頃成立した日本最古の仏教説話集。編者は薬師寺の僧景戒(きょうかい)。因果応報の仏教思想に基づいて,雄略(ゆうりゃく)天皇から嵯峨(さが)天皇の頃までの説話を和文体をも交えた変則的な漢文で著す。趣旨は因果のことわりを説くのが主であっても,このため当時の庶民の生活の様相が知れ,社会史・民俗史の上で貴重な資料となっている。正しくは『日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)』。
表題の話は『日本霊異記』の世俗説話の中心をなす強力譚(ごうりきたん)の一つである。

作品

尾張国宿禰(おわりのすくね)久玖利(くくり)は,奈良時代の稲沢市の長であった。久玖利の妻は,飛鳥にある寺にいた強力(ごうりき)の僧の孫であった。そしてたいそう物柔らかで,麻で美しい布を織り夫に着せていた。
ある時,夫が,国守に「おまえが着るようなものではない」と言ってその着物を取り上げられたと妻に話した。
妻は国守の元に行き返してくれるように頼んだ。その国守は, 「引きずりだせ」といい,部下の者が引きずり出そうとするが動かなかった。妻は,二本の指で国守のすわっている床座を,すわらせたまま門の外に運び出し,国守の着物をずたずたに引きさいた。国守は恐れおののき着物を返した。妻の力は竹をつかみほぐして織り糸のようにしてしまうほどであった。