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なぜノルマントン号事件の風刺画で,イギリス船がフランス船になっているの?

質問

ノルマントン号事件では,イギリス船の船長の行いが問題になったのに,風刺画にはフランス船・フランス人船長と書いてあります。なぜなのでしょうか?

解答

1886(明治19)年にイギリスの貨物船ノルマントン号が紀州沖で難破して,翌日沈没してしまいました。外国人船員はボートで脱出しましたが,日本人乗客23人(25人とも)は全員水死してしまいました。

事件後,神戸領事裁判所(イギリス人による裁判)は,「船長は無罪」という判決を下しました。

この判決に,日本国民は,はげしく怒りました。兵庫県知事に,イギリス人船長には殺人罪を適用すべきであるという内容で告訴(こくそ)させました。続く横浜領事裁判所(イギリス人による裁判)は,「船長は有罪,禁錮3か月。賠償金なし」という判決を下しました。

日本国民は,これでも怒りがおさまりませんでした。イギリスに対して治外法権を認めているがために,このような不平等な判決が出るのだということで,条約改正への意識が強まりました。

さて,ビゴーという人はフランス人で,条約改正はもっとゆっくりと対応するべきだという意見を持っていました。フランスが持っている有利な権利は,簡単には日本に返さない方がよいという立場なのです。

よって,ビゴーは,ノルマント号事件でのイギリスの対応の悪さによって,日本人の条約改正の意識を高めてしまったことについて,大変にがにがしく思っていました。そこで,ノルマントン号事件の翌年,フランス郵船メンザレ号が上海で遭難(そうなん)したニュースを知ると,それを利用して前年のイギリスの対応を皮肉った,条約改正反対の風刺画をえがいたのです。

複雑だね。

絵の中の船長は,遭難者に「いま何ドル持っているのか。早く言え。(以上はフランス語) タイム・イズ・マネーだ。(以上は英語)」と言っています。船長が,イギリス国旗をさして,「イギリス人がこんな失敗をするから,日本人を怒らせて,条約改正交渉を進めるはめになるんだ」といっているようです。

ビゴーはこの絵で,イギリス船長のへたな対応と,裁判でのイギリスの横暴を強く批判したのです。