高校生のための国語のおすすめ30冊

海の見える理髪店

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小説 私のおすすめ30冊 語り手 家族愛 秘密

集英社文庫(集英社)

荻原浩

誰にだって何にだってそれなりの理由や過程がある。

誰の目から見ているのか、誰がそれを語るのか。同じ現象であっても、見る人によって捉え方は様々なはずだ。それがたとえ法律に触れるような悪行であっても。「誰から見ても絶対悪」なんてそうそう無い。なにも悪を容認したいのではない。「盗人にも三分の理」なんてことわざもある。誰にだって何にだってそれなりの理由や過程がある。そう言いたいだけだ。その人なりの理由や過程を受け止める寛容・愛情・余裕の大切さを伝えたいだけだ。

本書の表題作は、二人の男性の視点から、それぞれの人生と、いま二人の間で起きていることについて語られる。一つのことが二人の目で見られ語られる。見え方が異なること、相手には分からないこと、伝えきれないことがある。そして、幾度も繰り返される語り手の交代。それを通して、我々は徐々に気付く。二人の根底に流れる「愛情」は共通のもので、愛は一方通行ではないということを。そして誰にだって何にだって理由や過程があることを。

次に読みたい本

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小説

新潮社

太宰治

太宰はまさに百面相。少しあざとい百面相。彼より上手く「語り手」を創れる作家を私は知らない。同書所収の「女生徒」もあわせて読むべし。

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エッセイ

講談社学術文庫(講談社)

鷲田清一

京都。誰でも知っている京都。しかし、筆者が語る「京都」、筆者が生きた「京都」を、我々は知らない。その人にしか語れない「京都」がここにある。