愛知の文学

主要な「愛知の文学」 −三河編

西三河

岸哲夫(きしてつお) 『明治川(めいじがわ)』

今日,「日本のデンマーク」の名で知られる肥沃(ひよく)な安城平野も,かつては一滴の水にも苦しんだ不毛の原野であった。幕末から明治の初めにかけ,私財を投じて,用水をひき,開墾せんとした都築彌厚(つづきやこう)らの苦難の一生が描かれている。東海毎日新聞に連載された。

桑原恭子(くわはらきょうこ) 『旅人(たびびと) われは』

明治末から昭和30年代にかけて,美術工芸界に多くの足跡を残したばかりでなく,小原(おばら)の和紙工芸の発掘振興に身魂を傾けた藤井達吉(ふじいたつきち)翁の,83年の生涯を綴(つづ)った中日新聞の連載小説。

『徳川家康(とくがわいえやす)』

家康を題材とした小説は,山岡荘八の『徳川家康』をはじめとして,堺屋太一(さかいやたいち),童門冬二(どうもんふゆじ),南条範夫(なんじょうのりお),松本清張(まつもとせいちょう),司馬遼太郎(しばりょうたろう)など枚挙にいとまがない。岡崎市立図書館の「家康文庫」は開架式であり,利用者は家康関連の資料・作品を直接目にすることができる。

阿部夏丸(あべなつまる) 『泣けない魚たち』

矢作川を舞台に展開される少年たちの物語。ぜひ読んでみたい作品。心が豊かになる。

東三河

井上靖(いのうえやすし) 『花粉』

伊良湖(いらご)岬を舞台に男女の心のすれ違いを描いた好短編。井上靖の作品には,自伝的長編小説『しろばんば』など,幼年期の一時期を過ごした関係から,戦前の軍都豊橋が多く登場してくる。

菊池寛(きくちかん) 『火華(ひばな)』

冒頭に蒲郡(がまごおり)の風光の美しさが描かれ,旅館「常磐(ときわ)館」を舞台にはじまる長編小説。竹島海岸の旅館跡地は「海辺の文学記念館」となっている。

宗田理(そうだおさむ) 『雲の涯(はて) 〜ぼくらの太平洋戦争』

昭和20年8月7日の朝,2,500人以上(うち学徒450名以上)の爆死者を出した豊川海軍工廠(こうしょう)爆撃を,当時の中学生を主人公に,生徒の作文も引用して書いた青春小説。作者は現在豊橋市在住。忘れてはならない重い歴史を,読みやすく描いている。慰霊碑が時習館高校内にある。

賀川豊彦(かがわとよひこ) 『一粒の麦』

奥三河の山村を舞台に,キリスト教へのひたむきな信仰を描いた長編小説。