愛知の文学

主要な「愛知の文学」 −尾張編

名古屋市・尾張

小酒井不木(こざかいふぼく) 『大雷雨(だいらいう)夜の殺人』

名古屋を舞台にした探偵小説。小酒井には,他にも名古屋を舞台にした探偵小説が多い。

葉山嘉樹(はやまよしき) 『セメント樽(だる)の中の手紙』

  • 葉山嘉樹
    (はやまよしき)

女性労働者の手紙に込められた労働者の連帯への願いを中心に,その手紙に深く読み入った主人公松戸与三(まつどよぞう)の労働者としての現実を描いた小説。葉山が名古屋セメント工場に勤めていたときの体験に基づいて書かれた。葉山は千種刑務所(現在の吹上ホール付近)でプロレタリア文学の代表作『海に生くる人々』他の原稿を書いている。

城山三郎(しろやまさぶろう) 『鳩侍始末(はとざむらいしまつ)』

鳩を溺愛(できあい)した尾張藩主徳川斉温(とくがわなりはる)の,鳩の世話係の侍久世藤吾(くぜとうご)の哀感を描いた小説。温厚で動物好きの主人公を通して,過剰な志や物欲の中にある悲哀を描いている。

曾野綾子(そのあやこ) 『太郎物語−大学編−』

息子太郎が通う南山大学を舞台にした青春小説。

堀田(ほった)あけみ 『1980アイコ十六歳』

名古屋の中村(なかむら)高校二年のときに書いた小説で,河出文芸賞を受賞。最年少受賞として話題になった。若い世代の柔軟な目で青春の哀感を描いている。

清水義範(しみずよしのり) 『金鯱(きんこ)の夢』

信長・秀吉・家康を扱ったパロディ風の時代小説。名古屋弁を駆使して異彩を放っている。

知多

小栗風葉(おぐりふうよう) 『亀甲鶴(きっこうづる)』

知多半島の造り酒屋を舞台にした短編。題材の新奇さと構成力の卓越によって注目された風葉の出世作である。

井上靖(いのうえやすし) 『佐治与九郎覚書(さじよくろうおぼえがき)』

知多半島の西海岸に位置し,古くから海運業で栄えた町大野(おおの)の城主佐治与九郎に取材した歴史小説。

澤田(さわだ)ふじ子 『蜜柑庄屋(みかんしょうや)・金十郎(きんじゅうろう)』

知多半島に蜜柑栽培を根づかせた大岩(おおいわ)金十郎をモデルにした歴史小説。また澤田は,半田での軍隊の演習に明治天皇行幸に材を取ったローカル色と虚構性の豊かな悲劇的作品である『世間の棺(ひつぎ)』を書いている。