愛知の文学

愛知の芥川賞・直木賞作家

昭和10年,文芸春秋社を設立した菊池寛(きくちかん)は,盟友であった芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)と直木三十五(なおきさんじゅうご)の二人を記念する新人賞を制定した。年2回,その年の優秀作品の中から,純文学に対して贈られる芥川賞と,大衆文学に贈られる直木賞である。

愛知に縁(ゆかり)の芥川賞受賞作家をみると,第4回『地中海』で受賞した富沢有為男(とみざわういお)は東海中学出身で,後に新愛知新聞記者となった。
同じく東海中学出身で名古屋大学医学部卒業の小谷剛(こたにつよし)は,名古屋を舞台とした『確証』で第24回で受賞。戦争で中止となっていた芥川賞の,戦後復活の最初の受賞とあって,郷土の作家活動に大きな希望を与えた。小谷剛が主宰した同人誌「作家」は,昭和23年から平成4年までの44年間,516冊の刊行を誇る,わが国最長の同人誌である。寄稿作家には,芥川賞の高橋三千綱(たかはしみちつな),直木賞の藤井重夫(ふじいしげお)や豊田穣(みのる)らがいた。
第63回『無明長夜』で受賞の吉田知子(よしだともこ)は,名古屋市立女子短大卒業で伊勢新聞名古屋支局に勤務していた。第84回『父が消えた』の尾辻克彦(おつじかつひこ)は旭丘高校美術科の卒業である。

ついに愛知県出身者が芥川賞を受賞 第120回(98年下期)芥川賞に蒲郡市生まれの平野啓一郎さんが選ばれた。受賞作『日蝕』はフランスを舞台にした作品で,受賞時にはまだ大学生であった。題材の広さは「中学校のころから意識的に読書しつづけてきた」(中日新聞)から。次の時代をになう郷土の作家が後に続いて登場することを期待したい。

直木賞受賞作家では,第40回『総会屋錦城(きんじょう)』の城山三郎(しろやまさぶろう)が戦後の郷土を代表する作家である。彼は名古屋で生まれ,名古屋市立名古屋商業学校を卒業した。後には,愛知学芸大学(現,愛知教育大学)の教壇に立った。『恋文』で第91回受賞の連城三紀彦(れんじょうみきひこ)は,名古屋生まれで旭丘高校出身。同じく名古屋で生まれた山口洋子(やまぐちようこ)は第93回『演歌の虫』『老梅』で受賞。第100回には,金城学院大学大学院出身の杉本章子(すぎもとあきこ)が『東京新大橋雨中図』で受賞している。宮城谷昌光(みやぎたにまさみつ)は蒲郡(がまごおり)の生まれ,時習館高校卒業で,『夏姫春秋』で第105回受賞。中国を題材とした歴史小説家である。『新宿鮫無間人形(しんじゅくざめむげんにんぎょう)』で第110回受賞した大沢在昌(ありまさ)も名古屋生まれで東海高校卒業のハードボイルド小説家である。
愛知県生まれの直木賞作家は多く,その活動も幅広い分野にわたって活躍している。