アクティブ地理 インタビュー特集

東北地方

伝統的な技術,現代生活にあったデザイン
佐々木和夫さん

南部鉄器の伝統工芸士

きっかけとしては,兄がこの仕事を継いでいましたが,体を悪くしたので代わりにピンチヒッターとしてこの仕事をすることになりました。伝統工芸にたずさわる人が少なかったですし,やってみようと思いました。やってみたら物をつくるということのおもしろみ,ないものから形をつくるおもしろみにはまってしまう感じでした。
かたち・大きさ,いろいろなことが自分の思い通りにできるというのは,他の職業ではなかなか無いこと。おもしろくてしょうがなかったです。

ただお湯を飲むだけで鉄分が自然と摂取でき,体にいいです。大学で調べてもらったところ,一番多いケースでは,1リットル中に13mgもの鉄分が入っていました。健康な成人男性1人1日当たり7.5mgの鉄分を摂取することが望ましいとされています。
それから,生活に使用される道具であるということ。鉄の寿命は長く,50~500年もつといわれています。長い間使うことができます。デザインが豊富で形が非常に美しい。美術的な要素もふくまれています。ぜいたく品に思えるほど,魅力ある心ひかれる形のものを,日常使用できるということでしょうか。

技術は昔ながらの方法を受け継いだまま変えずにやっています。デザインは現在の生活に合うように工夫しています。例えば,50~100年前は炭を熱源としていたのが,プロパンガスになるなど,熱源が変化しています。現在はIH(電磁調理器)が増えてきたため,熱源から効率よく熱を得られるようなかたちを工夫しています。
また,昔は鉄瓶から直接お湯呑みや急須などにお湯を注いでいました。今は沸かしたお湯は大部分ポットに移して使用されています。細い注ぎ口はお湯呑みや急須に注ぐのには便利でしたが,ポットに移すには時間がかかってしまいます。すると鉄瓶の重みを感じ,敬遠されてしまうことにつながります。鉄瓶自体の厚さを2mmにするなど,軽量化の工夫ははかっていますが,傾けたときに楽に注げる形,注ぎ口を太くするなどのことを考えました。生活に即したかたちを心がけています。実際に使ってこその南部鉄器ですから。

40年前にこの世界に入りました。自分の世代は極端に少なく,周りは大先輩ばかりでした。一人で物をつくっても,産地とはいえません。ものづくりの集団を産地といいます。職人を育てて,多くの人間で物をつくらなければ産地とはいえません。
かつてと比べて,南部鉄器の会社が半分ほどに減ってしまいました。しかし,幸いなことに現在は各工房で若手職人が増えてきました。鉄瓶,伝統工芸の大切さを若い人も理解し,考えるようになってきています。同じ年代の人が増えると,競争心から,よりいい物を出そうと工夫します。若い人には,ただ単なる工人としての下仕事だけでなく,難しい仕事や楽しめる仕事も与えています。ものづくりの楽しさを研究し,工芸の世界にのめりこんで行ってほしい。「工人」として働くだけでは,この世界は守りきれません。
国内の消費地だけを見つめるのではなく,中国・アジア・アメリカなど,広く日本の伝統文化を伝える,世界を見すえたデザインも手がけています。幅を広げる努力をしています。

そんなにありません。どんな仕事にも苦労する点はあるはずです。この仕事特有ということであれば,火を使うところです。冬はいいですが,夏は作業場が50度前後と非常に高温になります。これは大変な重労働です。この暑さに慣れるということが大変です。
原型作りで砂を使用するため,作業場はほこりがちです。そういう意味でいけば,3k(キケン・キタナイ・キツイ)の職場と言えなくはありませんが,若い職人も不思議とそのようなことは言いません。物をつくる喜びのほうが上回っているのでしょう。

幸いなことに,ここにはショールームもあり,販売店もあり,お客様から「鉄瓶を長く使っている」「とてもお湯がおいしい」「デザインが気に入っている」などの声を身近に聞くことができます。お客様からの声を聞くことが一番の張り合いになり,もっといい物をつくりたいという気持ちも起こります。
伝統型の鉄瓶と現在型の鉄瓶では,現在出荷数が半々ほどです。このことから考えても,使いよさをいかに大事にするかということが,これからの商品開発のポイントです。