アクティブ地理 インタビュー特集

中部地方

QRコードは部品工場から生まれた

田野壮一さん 水越宏明さん 原昌宏さん

株式会社デンソーウェーブ

インタビュー

水越さん:私たち3人はAUTO-ID事業部に所属しています。(AUTO-ID = Auto Identification…自動認識)バーコードや,QRコード,RFID(無線でIDをやり取りする技術)を使ったアプリケーションなどを開発したり,それらを読み取る機器を販売したりしてビジネスにする部署です。1994年に原さんが開発したQRコードは,現在みなさんが触れられる場所にも増えてきました。それを使ってさらに新しいサービスなどを開発する仕事をしています。

原さん(QRコード開発者):QRコードの仕様を拡張して新しいQRコードを開発したり,機能を追加したり,お客様と一緒にQRコードの新しい使い方を開発したりしています。

田野さん:AUTO-ID製品(バーコード,QRコード,RFID)の新しい市場開拓や新しい用途の創出を社内外と協力して進めています。QRコードで言うと,QRコードを利用した顔認証のしくみを作ったり,QRコードで電車に乗れる乗車券のしくみを作ったりするなど,社会の中でより便利になったらいいなと思うことや,困っていることをAUTO-ID製品で実現していく仕事です。様々な会社と協力しながら作り上げていきます。

情報を読み取る記号にバーコードというものがあります。バーコードは横方向の並びで,線の幅の太さで情報を表します。自動車工場での部品や品質の管理に使用されていました。QRコードは縦と横両方向使うことで,情報量を多くしたコードです。バーコードの約200倍の情報を,瞬時に読み取ることができます。QRとは,「クイックレスポンス」の略で,素早く読み取ることを実現しています。コードの最大面積の30%が汚れても読み取れるしくみで,QRコードも当初から自動車工場での部品や品質管理に使われていました。

開発が始まった1992年は,バブル崩壊による景気の悪化で,物が売れなくなった時代です。大量生産から,ユーザーの好みに応じた多品種少量生産へと移行していきました。自動車業界でも,オプションなどの違いで品種が増え,製造業者が細かい管理をするようになっていました。管理のために多くの情報が必要になり,一つの商品の箱にバーコードが10個ぐらい並べられて,それをすべて読み取って管理していました。また,バーコードは線の幅の太さで情報を表すため,工場で汚れると間違って読み取られることがありました。このような事情で生産効率が悪くなり,現場で作業している人たちから苦情が出てきました。バーコードの限界を感じて,次世代に対応できる新しいコードを開発することにしました。構想してから,実際に開発するまで1年半ほどかかりました。

一般市民にまで普及したことです。QRコード決済など,物を買う技術になるとは私たちも思っていませんでした。当時バーコードは誕生から4~50年経過していて,ライセンスフリーになって普及していました。私たちもQRコードを広めるためには,ライセンスを取って一社でQRコードを読み取れる環境を整えているのでは,普及の妨げになると思い,最初からオープン化するつもりで開発に取り組んでいました。実際に街中で一般の方々が使うようすを見たとき,感無量でした。

最初は工場の中で主に使われていました。携帯電話で読み取れるようになってからは,テレビや雑誌でQRコードが使われるようになりました。中学生のみなさんには,携帯電話でさらに詳しい情報をリアルタイムに取得する使い方が身近なのではないでしょうか。他には,飛行機の搭乗券,鉄道の乗車券,映画館,水族館など,入場時にQRコードがついたチケットをかざして入ることができるようになりました。また,最新事例としては,鉄道のホームドア(転落防止のホーム柵)の開閉をQRコードの技術で管理するしくみがあります。電車の左右の扉にQRコードをそれぞれ1枚ずつつけて,QRコードが離れたら車両の扉が開いた,QRコードが近づいたら扉が閉まったという信号を受け取って,駅のホームドアが開閉します。QRコードを使用することによって,車両を改修する必要がなくなり,経費と時間を節約してホームドアを駅に設置できます。安全が求められるシーンでQRコードが利用されているのは,確実に読み取れる性質が信頼されているからだと思います。

QRコードによるチケットの電子化は,紙媒体の削減につながっています。また,会社としては,グリーン調達に取り組んでいます。部品を調達するときから環境負荷の少ない素材を優先的に使うことを心がけることで,環境負荷が少ない製品が出来上がり,大きく環境問題の改善につながっていくという考えです。

水越さん:いつになってもワクワク感を持って生きるために,いろんなことに挑戦したいと思っています。中学生のみなさんにも,小さいころからの夢をかなえるべくいろんなことに取り組んでほしいなと思います。

原さん:世の中にない新しいものを作ることがやりがいです。それを使う現場の人の声を聞いて意見を大切にすることを心がけています。また,自分自身もいろいろなものに対して好奇心と探求心を持つことで,新しいものを作る意欲がわいてきます。中学生のみなさんも,ぜひいろんなことに興味を持ってください。

田野さん:これから起こりうる課題や,より便利になると良いと思われることなど,社会の中での課題を見つけてきて,それを様々な企業と共創して作り上げていくことにやりがいを感じます。しかし,やりがいがある反面,うまくいかないことも多いです。思い通りのしくみにするためには,時間や周りの人の協力が必要です。
中学生のみなさんには,何でも一人で抱え込まずに,周りの人と話し合い,様々な視点を得て考察して,自分なりにリスクを洗い出して,最後は実際に自分の目で確かめて進めていくことが問題解決の最短の近道だと思います。なので,横着せずに自分で勉強して,興味を持ってどんどん自分のものにしながら周りの人とのつながりを深めれば,おのずと新しい自分のやりたいことが見つかると思います。