【進化でつながるヒトと世界】未来のヒトは…?

未来のヒトがどうなるかを考えるためには,これまでにヒトやほかの生物がどのような進化をしてきたのかを知ることが重要である。ここでは,これまでの進化について紹介する。

 ヒトは,新しい病気にかかる?長生きになる?

ヒトの歴史の中で,生活のしかたが変化するとともに,感染症などの新たな疾患が現れてきた。こうした中で,ヒトはさまざまな病原体とたたかってきた。

ヒトの感染症は,分かっている限りでは約70%が動物由来であると考えられている。ヒトが野生動物を家畜化し,農耕生活を始めてから,絶えず感染症が出現してきた。天然痘,ポリオ,麻疹,インフルエンザ,新型コロナウイルス感染症はウイルスによる感染症である。ウイルスは原核生物や真核生物を宿主として増殖する。ウイルスの進化の原動力は,増殖の際にゲノムが複製される過程で生じる突然変異である。ウイルスは一世代が短く,突然変異を起こす確率が高いので,短時間で変異体が生じる。ウイルスの中でも強い病原性を示すことの多いRNAウイルスは,突然変異が起こる確率が高いため,変異体を生み出しやすい。一般に,突然変異の多くは生存に有利にならないため,突然変異が起こる確率が高いことはウイルスにとって不都合にみえるが,短時間で多くの変異体ができることが,宿主の免疫系から逃れるのに役立っている。感染症を予防する方法としては,ワクチンを注射する予防接種がある。

また,感染症だけでなく,さまざまな疾患に対して,ヒトは予防や治療を行ってきた。1型糖尿病に対しては,治療に必要なインスリンなど合成が難しい物質を,遺伝子組換え技術の発展により,人工的に合成することができるようになった。人工の幹細胞は,再生医療の発展や新薬開発に貢献している。そして今もなお,ゲノム編集技術など,新しい技術が開発され,医療のさらなる発展が期待されている

 ヒトは光合成ができるようになる?

多くの植物は細胞内に葉緑体をもつため,光合成を行うことができる。一方,ヒトを含む動物は葉緑体をもたないので,光合成をすることはできない。しかし,動物の中には,光合成をする生物から葉緑体だけを取り込んで光合成を行うことで,えさを取らない「植物的な生き方」をするものがいる。ゴクラクミドリガイとよばれるウミウシは,ある決まった海藻を食べて,葉緑体以外を消化する。体内に残った葉緑体はウミウシの細胞内に取り込まれ,数か月間光合成を行う。

光合成をする生物と共生することによって,「植物的な生き方」をするものもいる。例えば,サンゴは渦鞭毛藻とよばれる褐色の藻類を細胞内に共生させており,藻類に窒素などを与え,藻類が光合成によってつくり出す有機物と酸素を得ている。他にも,藻類と共生するウズムシやサンショウウオ,シアノバクテリアと共生するホヤなど,さまざまな共生関係が知られている。しかし,哺乳類で藻類と共生するものは見つかっていない。

動物が「植物的な生き方」 をするようになったのは,進化の過程でその生き方が有利であったからだと考えられる。しかし,植物の中には「植物的な生き方」をやめてしまったものもいる。例えば,ラフレシアは,光合成を行わず他の植物から栄養分を奪って生きている寄生植物である。他にも,光合成を行わず菌から栄養分を得ている菌従属栄養植物がいる。原生生物の中にも,光合成能力を失ったものは多く,マラリア原虫などが含まれるアピコンプレクサ類は動物に寄生して栄養を得ている。(マラリア

このように,「植物的な生き方」をするものも多いが,「植物的な生き方」をやめてしまったものも多い。ヒトが光合成をすることが,今の生き方より有利にならなければ,進化の過程で光合成をできるようにはならないと考えられる。

 ヒトは空を飛べるようになる?

はばたいて空を飛ぶ鳥類は,空を飛ぶのに適した形質をもっている。例えば,前肢は翼となっており,飛翔筋が発達している。また,力学的に空を飛ぶのに適した体型になっている。骨の中は空洞になっており,体が軽い。

鳥類は恐竜の獣脚類から進化したと考えられている。現生鳥類が多様化し,現在の鳥類の骨格ができたのは新生代に入ってからであるが,鳥類特有の呼吸システムや羽毛の原型は,空を飛べるようになる前の獣脚類の時代(中生代)には完成していたと考えられている。

哺乳類の中にも,空を飛ぶ動物がいる。哺乳類の中で唯一はばたいて空を飛ぶコウモリは,長くのびた前肢の4本の指と後肢,尾の間に飛膜を張った翼をもっており,体重は大きいものでも2kg以下と軽い。

ヒトが空を飛ぶためには,まず翼が必要である。そして,空を飛ぶのに適した体型になり,体重は軽くならなければならない。また,高いところを飛ぶためには,今よりも効率的に酸素を取り込むことができる呼吸システムを獲得する必要などがある。

 ヒトはこれからも繁栄し続ける?

ホモ・サピエンス(現生人類)は,約20万年前にアフリカで出現したと考えられている。その後,1万年前には五大陸すべてにホモ・サピエンスがすむようになった。ヒトの数は,産業革命以降急激に増え,2019年の世界人口は約77億人となった。国連の2019年の予測では,2100年には世界人口は約110億人になるといわれている。

ヒトは約20万年の間地球上で繁栄してきたが,地球が誕生してから今までの時間を1年間に換算すると,ヒトが繁栄してきた時間はわずか23分程度である。化石記録からは,多くの生物は長期間繁栄しても絶滅してしまうことがわかっている。例えば,恐竜は約1億6400万年間(換算すると約13日)繁栄していたが,環境の急激な変化により絶滅した。

恐竜の絶滅をもたらした環境の変化は,恐竜以外にも多くの生物を絶滅させた。このような大量絶滅は過去に5回起こっており,6回目の大量絶滅は,ヒトの活動の影響で現在進行中であるという研究者もいる。ヒトによる生息地の破壊,乱獲,外来生物の移入,地球温暖化などの地球規模の変化は生物の多様性が失われる原因となる。ヒトは生態系からさまざまな恩恵を受けており,生物の多様性が失われると,ヒトにも大きな影響を与えると考えられる。

持続可能でよりよい世界を目指すため,2015年9月の国連サミットでは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。この中には「持続可能な開発目標(
SDGs: Sustainable Development Goals)
」が記載されている。17の目標は,「経済・環境・社会」の3つの軸で構成されており,地球上の「誰一人取り残さない」社会にするように取り組まれている。