ジェンナー~近代免疫学の父~

ワクチンを用いる予防接種の概念は,イギリスのジェンナーによって実証され,確立されました(1796年)。当時の予防対象だった天然痘は,1980年にWHOによって世界根絶宣言がなされています。

今でこそ,免疫に関わる主な細胞や分子が明らかになっていますが,彼の活躍した18世紀には,接種時にどのような反応が体内で起こっているかはまだ知られていません。そんな時代にあって,ジェンナーは外科医としての経験を通じて,「牛痘を感染させることで,より重症である天然痘を予防できるのではないか」と考えました。

牛痘は,ウシなどの動物がかかるウイルス感染症で,発症すると天然痘に似た発疹が皮膚に現れました。ウシの乳房を介して乳搾しぼりをする人の手に感染しますが,その症状は軽く,後遺症が残ることはありません。そこで彼は,豚痘や牛痘の患者が出ると,その周りの人達に患者の膿を接種することを試みました。そして,失敗を重ねながら,ついに天然痘を予防することに成功したのです。

ジェンナーによってワクチンの接種が確立される以前には,天然痘を防ぐ手段として病原体そのものを接種する方法がとられていました。しかし,予防のために行った接種によって発病し,死亡する例が多かったことから,安全な予防法が待ち望まれていたのです。