新しい公民
教師用解説

P.72・73 内閣のしくみとはたらき

単元の目標
①内閣はどのような仕事をしているのか。
→憲法第65条 行政権は,内閣に属する。(1参照)
②議院内閣制とはどのようなしくみか。
→内閣が国会の信任にもとづいて成立し,国会に対して連帯責任を負うしくみ。(2参照)

Quiz 内閣総理大臣ってどんな人?

  • 議院内閣制を採用しているので,内閣総理大臣は国会議員の中から国会で選ばれ,内閣を構成する国務大臣を任命する。
  • クイズ①②…憲法第67条① 内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決で,これを指名する。この指名は,他のすべての案件に先立つて,これを行ふ。
  • クイズ③…憲法第68条① 内閣総理大臣は,国務大臣を任命する。但し,その過半数は,国会議員の中から選ばれなければならない。

1 内閣の仕事

  • 内閣の仕事は憲法第72(内閣総理大臣の職権)・73条に規定されている。
    • 憲法第72条 内閣総理大臣は,内閣を代表して議案を国会に提出し,一般国務及び外交関係について国会に報告し,並びに行政各部を指揮監督する。
    • 憲法第73条 内閣は,他の一般行政事務の外,左の事務を行ふ。
  1. 法律を誠実に執行し,国務を総理すること。
  2. 外交関係を処理すること。
  3. 条約を締結すること。但し,事前に,時宜によつては事後に,国会の承認を経ることを必要とする。
  4. 法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。
  5. 予算を作製して国会に提出すること。
  6. この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること。但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない。
  7. 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を決定すること。
  • 内閣の職務(行政権)とは,国の基本政策を決定し,内閣の下にある行政機関を指揮監督・調整する権限(執政権)をいう。

  • 国の政策には法律の制定・予算がかかわるため,国会と連携する必要がある。

  • 内閣の権限として,上記のほか,天皇の国事行為への助言と承認(憲法第7条),【対立法】臨時国会召集の決定・参議院の緊急集会の要求,衆議院解散の決定,【対司法】最高裁判所長官の指名・その他の国務大臣の任命 などがある。

  • 国務大臣の数は14人(復興庁,東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部,および国際博覧会推進本部設置中は17人)以内と定められているが,特に必要な場合は17人(同20人)以内とすることができる。

2 議院内閣制

  • 議院内閣制は,イギリスで生まれた政治形態。国王の専制政治に対抗する議会は,権利章典によって議会が国王に優越することを認めさせ,議会主権が確立した。
    また,内閣はもともと国王の諮問機関であったが,議会主権が確立し政治における議会の力が強くなると,内閣は議会の多数派を占める政党で内閣を組織し,議会の支持を失えば政権を追われるという責任内閣制(現在の議院内閣制の原型)が生まれた。
  • 内閣がさまざまな政策を実行するには,国会で法律を定め,予算を組まなくてはならない。内閣が国会の多数政党から構成される(内閣が議会の信任を得ている)議院内閣制は,こうした手続きを比較的スムーズに進めることが可能となる。
?の解答例
  • 内閣は,国民の代表である国会の信任のもとに置かれている。
  • 内閣は国会の信任のもとに成り立ち,国会に対して連帯責任を負う。
  • 国会が内閣を支持しない場合は,内閣不信任決議によって内閣に総辞職をせまることができる。
  • 内閣は,総選挙で国民の意思を問うために,衆議院の解散を決定することができる。

3 内閣ができるまで

  • 衆議院議員の任期満了による総選挙は,1976年12月三木内閣の1回のみ。
  • 内閣総理大臣の辞任は,「内閣総理大臣が欠けた場合」(憲法第70条)に含むのが通説。
  • 2019年までに内閣不信任決議が可決されたことがあるのは1948年,1953年,1980年,1993年の4回。内閣不信任決議の可決に至った理由は次の通り。
1948年(吉田内閣) GHQが憲法69条以外による解散を認めないとしたため,野党の不信任案を可決。通称なれあい解散
1953年(吉田内閣) 首相が社会党の質問中に失言したことにより,不信任案を可決。通称バカヤロー解散
1980年(大平内閣) 自民党の党内分裂により,野党の不信任案を可決。通称ハプニング解散
1993年(宮沢内閣) 政治改革の先送りで生じた混乱を収拾できず,不信任案が可決され,解散。通称政治改革解散。
  • 2019年8月24日,安倍晋三前首相の通算在職日数が,佐藤栄作の2798日を上回り戦後最長になった。さらに,同年11月20日に桂太郎の2886日を超えて歴代最長となった。
  • 2020年8月24日,安倍晋三前首相は,連続在職日数がこれまで最長だった佐藤栄作の2798日を上回った(2020年8月28日辞任表明)。
  • 安倍内閣は2020年9月16日に総辞職し,阿部前首相の通算在職日数は3188日,連続在職日数は2822日でいずれも憲政史上最長。
  • 最短は戦後処理をした東久邇宮稔彦王内閣の54日。次いで羽田内閣の64日。

ココが知りたい 大統領と首相は,どうちがうの?

イギリス・ドイツ 議院内閣制
アメリカ・韓国 大統領制
フランス・ロシア 大統領制と議院内閣制を折衷した半大統領制
発問例と解答例

〇それぞれ,どのように選ばれるのかな?

  • イギリスの国家元首は世襲制の国王(現在はエリザベス女王)。政治的権限はもたない。「君臨すれども統治せず」。下院第一党の党首が,国王によって首相に任命される。

  • ドイツの大統領は,下院議員(国民の直接選挙で選出)と州議会が選んだ代表からなる連邦会議で選出されるが,政治的実権はない。政治的実権は,下院から選出される首相がもつ。

  • アメリカ,フランスの大統領は,国民の直接選挙で選ばれ,大統領に政治的実権がある。

  • アメリカには首相が存在しない。

  • フランスは,大統領が首相を任命する(フランス大統領は首相の辞職申し出に基づく首相解任権ももつ)。

  • ロシア・韓国も大統領を国民が選び,大統領が首相(または首相に相当する役職)を任命する。

  • 日本の場合,行政のトップは内閣総理大臣だが,国家元首はさまざまな説がある。日本国憲法上は,天皇が国家元首であるという規定はない。(日本国と日本国民統合の象徴)

4 異なる2つの政治のしくみ 大統領制と議院内閣制

  • 大統領制は,立法・行政・司法が完全に独立し,厳格な権力分立である。
  • 行政権にかかわる人は議員を兼任できない。(三権の兼職は不可)
  • 大統領は法案提出権や議会解散権がない。また,議会の信任を必要としない。
発問例と解答例

〇行政の長を国民から直接選ぶ場合(首相公選制)と,議会から議員が選ぶ場合と,どちらがいいのかな?

直接選ぶメリット
主権者から直接選ばれるので,政権や政策の正統性が得られる。
リーダーシップの強化が期待できる。
直接選ぶデメリット
単なる人気投票に陥る可能性がある。
政策の実行には国会での法律制定・予算成立の手続きが必要であり,議会の支持を得ない人が長に選ばれると,ねじれ状態となり,政治が停滞する可能性がある。
議会から選ぶメリット
内閣と議会の多数政党(与党)が協力して政策をつくり実行することができる。
主権者が選ぶ際に誤りを犯す可能性を防ぐことができる。
内閣を議会の監視の下に置くことができる。
議会から選ぶデメリット
議会と内閣の抑制の関係が弱い。(権力が完全に分離していない。)