【進化View】電子伝達系の起源と進化

電子伝達系の起源と進化

電子伝達系の起源

初期の生物は現在の発酵に似たしくみによってエネルギー(ATP)を得ていたと考えられる(【進化View】発酵から呼吸へ )。当時の発酵では,有機物が有機酸に部分的に分解されたときに放出されるエネルギーによってATPを得ていたようである。そして,このときにできた有機酸は老廃物として細胞外へ排出されていた。

最初の電子伝達系がどのようにしてできたかについてははっきりわかっていないが,次のようにできたとするストーリーが考えられている(図1)。

①ATPを使ってH+を放出するしくみの出現

有機酸の排出は環境のpHを低下させた(H+が増加した)ので,能動的にH+を排出するしくみとして細胞膜にH+をくみ出すポンプ(タンパク質)ができたはずである。このポンプの1つにATPの分解で得たエネルギーを使ったものが出現した。

②ATPを使わずにH+を放出するしくみの出現

発酵を行う生物が増加して,発酵に利用する有機物が減少してくると発酵で得られるATPが少なくなるため,H+の排出にATPを使う生物は不利な状態になってきた。そのころ,分子の間で電子が受け渡される際に生じるエネルギーを使ってH+を排出するタンパク質を細胞膜にもつ生物が出現した。このしくみをもつ生物は,Hの排出に使っていたATPのエネルギーを他の生命活動に使うことができるため有利であった。

③電子伝達系の成立

②の電子の受け渡しによるH排出の効率が上がると,細胞の内外で大きなH濃度勾配をつくれるようになった。次に,ATPを使うポンプと電子の受け渡しによるものの両方のH+排出システムをもつ生物が出現すると,ATPを使うポンプを逆に動かす(注1)ことによって,H+の濃度勾配を使ってATPを合成するシステムができあがった。これが電子伝達系の起源となった。

光合成の電子伝達系への進化

呼吸の電子伝達系と光合成の電子伝達系の進化についても不明な点が多いが,どちらも膜に存在するタンパク質群による反応系であること,H+の濃度勾配を使ってATPを合成する同じようなATP合成酵素が使われることなど,共通点も多い(図2)。これらから,この2つの電子伝達系が独立に生じたとは考えにくい。では,これらはどちらが先に生じたのだろうか。

タンパク質のアミノ酸配列や構造の比較から,図3のような進化のシナリオが提案されている。これによると,呼吸の電子伝達系のシトクロムb遺伝子に遺伝子重複が起こったり,遺伝子が断片化したりして,光合成細菌の共通祖先型の反応中心タンパク質ができた。さらにこれらに遺伝子重複が起こり,生じたものがそれぞれ進化して紅色細菌(注2)・緑色非硫黄細菌(非酸素発生型光合成)の反応中心タンパク質と,シアノバクテリア(酸素発生型光合成)の反応中心タンパク質になったと考えられている。

また,光エネルギーを吸収する光合成色素の獲得は,光合成の進化の上では非常に大きなイベントである。まず,紅色細菌の祖先で最初にバクテリオクロロフィルの遺伝子が獲得された。それからしばらくして,バクテリオクロロフィルの遺伝子がシアノバクテリアの祖先に移動して(水平伝播),クロロフィル遺伝子となった。この後,これが植物に受けつがれたと考えられている。 原始地球では,わずかに酸素が存在したと考えられており,呼吸のしくみが生まれたあと,それを利用して光合成のしくみが生まれたと考えられている。

注1

現在の細菌の中には,ATP分解酵素を条件によって逆に動かしてATPを合成するATP合成酵素に相互に切り替えるものも存在する。

注2

紅色細菌には,紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌が含まれる。

【参考文献】

  • Bruce Alberts他著.中村圭子他監訳.細胞の分子生物学 第6版.ニュートンプレス,2017
  • Jin Xiong, Carl E. Bauer.A Cytochrome b Origin of Photosynthetic Reaction Centers: an Evolutionary Link between Respiration and Photosynthesis.Journal of Molecular Biology,Volume 322,Issue 5,2002,Pages 1025–1037.

【参考ウェブ】