世界史おすすめ50冊

馬の世界史

講談社現代新書 / 本村凌二

何千種類というほ乳類の中で人類が家畜にし得たのは、犬・猫・羊・山羊・牛・豚・馬・ロバ・ラクダなど、ほんの10種類ぐらいである。その中でも、人間と馬との出会いは最大級の衝撃であるとする筆者は、人類の文明は馬によって数千年も早く進展できたと考える。

前2000年紀(前2000〜前1001年)に、ユーラシア北方から西アジアに南下してきたインド=ヨーロッパ語族のうち、とくに、ヒッタイト人は強力な軍隊をもって侵攻した。鉄器と馬に引かせる戦車は、それまでのオリエント文明にはない新兵器であった。

その後、諸民族の興亡激しい古代オリエント世界で、アッシリア人はおそらくスキタイ人など騎馬遊牧民から騎馬法を学んだであろう、戦車隊に騎馬隊を加えた強大な軍事力を組織した。そして前7世紀には、メソポタミアからエジプトまで支配下においた。史上初の「世界帝国」アッシリアは、ユーラシアの騎馬遊牧民から誕生したといえる。

騎馬遊牧民が世界帝国出現の誘因の一つであったことは、西アジアばかりでなく東アジアでもいえる。司馬遷の『史記』によれば、古代中国の殷と周の戦いは、四頭立ての馬に引かれた戦車を軍の中核とするものであった。戦国時代には、趙の武霊王が北方騎馬遊牧民の戦法に習い、「胡服騎射(こふくきしゃ)」と呼ばれる騎馬戦法を採用した。さらに、秦は中国の西方にあって、もともと馬の飼育を専業としていた部族がつくった国だとも指摘している。

馬から見た世界史を鮮やかに解説している。競馬ファンでもある著者が、馬を通して世界史をユニークに概説する。