世界史おすすめ50冊

トラが語る中国史

山川出版社 / 上田信

新石器時代から現代までの中国史を、エコロジカル・ヒストリー(生態環境史)の側面から見直している。中国のトラがどのようにして追いつめられていったのか。ヒトにとって開発の歴史でも、トラの立場からいえば生息地の環境破壊の歴史である、と分析する。

アモイトラがもともと多くすんでいた地域は中国東南部で、常緑広葉樹林が1年を通して葉を茂らせる森林地帯であった。

魏晋南北朝時代に気温が寒冷化し、このとき、モンゴル高原からヒトが南下して黄河流域へ進出、玉突き的に華北の漢族が南へ移住した。入植するには東南部を開発する必要が生じ、トラの領域から土地が切り取られ、荘園がうまれる。そして、南宋時代には南方の人口が3分の2まで増加し、北の人口を上回る。また、金やモンゴルに対抗するため、南宋は水軍の艦船を建造する。その資材供給のため、トラのすみかである常緑広葉樹の森を伐採し杉の植林を進めた。

さらに、フビライ=ハンの時代には、陶磁器などの輸出向け物産の生産が激増し、大量の木材が焼かれる。景徳鎮などの窯は常葉広葉樹の森を食いつぶしていく。こうして山に入ろうとするヒトと渓谷をすみかとするトラが遭遇する機会が増加したのだ、という。

絶滅寸前のアモイトラ自身が語る形式で全編が書かれていて、そのユニークな歴史の記述方法が本書の特色となっている。