世界史おすすめ50冊

カヌーとビーヴァーの帝国

山川出版社 / 木村和男

カヌーとビーヴァーに象徴される北米毛皮交易は、これまで世界史研究ではほとんど取り上げられなかったが、その世界的広がりは意外に大きく、カナダはヨーロッパやユーラシアにまで広がる毛皮ネットワークの中心であった。

ビーヴァーはもともとヨーロッパに広く生息していたが、乱獲のため17世紀にはほぼ絶滅し、代わって北米が最大のビーヴァー生息地となった。とくに、冬毛のビーヴァーは最高級品とされ、カナダ北西部が最高の毛皮生産地となった。そのことにより、カナダは他の北米・南米とは際立って異なる発展を示した。

なぜ、ビーヴァーの毛皮をヨーロッパの人々は必要としたのか?

このことが、スペイン継承戦争や七年戦争でのイギリス・フランスの動きに深い関係があることを、本書では謎を解いていくように説明している。同時に北米の先住民(インディアン)の生活にも触れている。

筆者は、毛皮交易の歴史研究がさらに進めば、従来もっぱら南回りで論じられてきた「世界システム」とは別の、「北回りの世界史」が描けるのではないかと予想している。

ビーヴァーについての知識なしに世界史におけるカナダ史の特質を理解することはできない、ということがこの本を読むとよくわかる。カヌーを使って北米を探検したことのある著者の体験をエピソードとして織り込み、興味深く読める。