キレート滴定について,入試実例(2023年近畿大学)を解きながら解説する。
グレーバックの部分が入試からの引用で,今回のテーマと関係のない部分を一部割愛している。また,数値を答える問題の選択肢を省略した。なお,解答・解説は浜島書店が作成したものである。
次の \fbox{\text{ 1 }} に入れる最も適当なものを解答群から一つ選べ。また,\fbox{\text{ 2 }} 〜 \fbox{\text{ 4 }} に最も適当な数値をそれぞれ答えよ。ただし,原子量は \mathsf{C}=12,\mathsf{O}=16,\mathsf{Mg}=25,\mathsf{Ca}=40 とする。
市販されているミネラルウォーターには陽イオンとしてナトリウムイオン \mathsf{Na^+},マグネシウムイオン \mathsf{Mg^{2+}},カリウムイオン \mathsf{K^+},カルシウムイオン \mathsf{Ca^{2+}} などが,陰イオンとして塩化物イオン \mathsf{Cl^-},硫酸イオン \mathsf{SO_4{}^{2-}},炭酸水素イオン \mathsf{HCO_3{}^-} などが含まれている。これらのなかでも \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} は水質を表す指標のひとつである硬度を算出するための成分であり,水の硬度は水 1\,\mathrm{L} 中に含まれる \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} の物質量の和と同じ物質量の炭酸カルシウム \mathsf{CaCO_3} の質量としてあらわされている。日本産ミネラルウォーターのほとんどは硬度が 120\,\mathrm{mg/L} 未満の軟水であるが,世界には硬度 1500\,\mathrm{mg/L} 程度の硬水を湧水する地域もある。
ある種の硬水では煮沸すると硬度が低下することが知られており,煮沸処理は,硬水の硬度を低下させる方法として利用できる可能性がある。煮沸により硬度が低下するのは,煮沸によって溶液中の \mathsf{HCO_3{}^-} が減少し,その結果 \fbox{\text{ 1 }} することがおもな原因であると考えられる。
水溶液中の \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} の濃度を求める方法として,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が2価の金属イオンと 1:1 のモル比で錯体を形成する性質を利用したキレート滴定をいう方法がある。この方法を用いて煮沸前後のミネラルウォーター(硬水)中の2価金属イオンの量を測定した。市販のミネラルウォーター(硬度 1390\,\mathrm{mg/L} )を煮沸し,析出した沈殿を取り除いたのち 100\,\mathrm{mL} をはかり取りキレート滴定を行ったところ,1.00\times 10^{-2}\,\mathrm{mol/L}のEDTA溶液を 5.00\,\mathrm{mL} 加えたところで終点に達した。ここで,測定の際に2価金属イオン以外のイオンは滴定の結果に影響をおよぼさないと仮定して計算すると,この滴定の結果より,煮沸後のミネラルウォーター 100\,\mathrm{mL} には,1.00\times 10^{-2}\,\mathrm{mol/L}のEDTA溶液 5.00\,\mathrm{mL} 中に含まれるEDTAと同じ物質量,すなわち \fbox{\text{ 2 }}\,\mathrm{mol} の2価金属イオンが含まれていることがわかる。ここで \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} 以外の2価金属イオンの量を無視できるとすると,煮沸後のミネラルウォーター 1.00\,\mathrm{L} に含まれる \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} の物質量の和は \fbox{\text{ 3 }}\,\mathrm{mol} となる。よって,煮沸後のミネラルウォーターの硬度は \fbox{\text{ 4 }}\,\mathrm{mg/L} となり,煮沸前の硬度よりも大幅に減少したことが確認できた。
(中段省略)
\fbox{\text{ 1 }} の解答群
① \mathsf{NaCl} と \mathsf{KCl} が析出
② \mathsf{MgCl_2} が析出
③ \mathsf{CaSO_4} と \mathsf{MgSO_4} が析出
④ \mathsf{Ca(HCO_3)_2} が析出
⑤ \mathsf{KHCO_3} が析出
⑥ \mathsf{CaCO_3} が析出
(以下省略)
\fbox{\text{ 1 }} について
加熱すると,炭酸水素カルシウム \mathsf{Ca(HCO_3)_2} (可溶)から二酸化炭素が遊離して,炭酸カルシウム \mathsf{CaCO_3} が沈殿する。 \mathsf{Ca(HCO_3)_2\;\longrightarrow\; CaCO_3\;+\;H_2O\;+\;CO_2} このようにして,\mathsf{Ca^{2+}} がとり除かれる。
⑥
\fbox{\text{ 2 }} について
1.00\times 10^{-2}\,\mathrm{mol/L}\times 5.00\times 10^{-3}\,\mathrm{L}=\bm{5.00\times 10^{-5}}\,\mathrm{mol}
\bm{5.00\times 10^{-5}}
\fbox{\text{ 3 }} について
5.00\times 10^{-5}\,\mathrm{mol}\times \dfrac{1}{100\times 10^{-3}\,\mathrm{L}}=\bm{5.00\times 10^{-4}}\,\mathrm{mol/L}
\bm{5.00\times 10^{-4}}
\fbox{\text{ 4 }} について
水の硬度は,1\,\mathrm{L} 中に含まれる \mathsf{Ca^{2+}} と \mathsf{Mg^{2+}} の物質量の和と同じ物質量の炭酸カルシウム \mathsf{CaCO_3} の質量で表される。\mathsf{CaCO_3} のモル質量は 100\,\mathrm{g/mol} なので, 5.00\times 10^{-4}\,\mathrm{mol/L}\times 100\,\mathrm{g/mol}=5.00\times 10^{-2}\,\mathrm{g/L}=\bm{50}\,\mathrm{mg/L}
\bm{50}