アルカンの立体構造

目次

エタンの立体配座

エタン \mathsf{CH_3-CH_3} は,炭素原子間の単結合を軸として回転して,いろいろな形になる。このような回転による形の違いを立体配座りったいはいざといい,異なった形になった分子どうしを配座異性体はいざいせいたいという。

写真1:エタンの立体配座(ねじれ形配座)
写真2:エタンの立体配座(ねじれ形配座)単結合の一方の端から見たとき
写真3:エタンの立体配座(重なり形配座)
写真4:エタンの立体配座(重なり形配座)単結合の一方の端から見たとき
ニューマン投影式

炭素原子間の単結合を一方の端から見て,2つの炭素を円で表し,手前の炭素の結合,後ろの炭素の結合を示して,配座異性体を識別したものをニューマン投影式とうえいしきという。

エタンの2つの立体配座(写真1〜4)をニューマン投影式で表すと,図1のようになる。

図1:エタンの2つの立体配座(ニューマン投影式)

6つの \mathsf{C-H} 結合が互いに最も離れたもの(ねじれ形配座)が最もエネルギーが低く安定で,6つの \mathsf{C-H} 結合が最も接近したもの(重なり形配座)が最もエネルギーが高く不安定である。したがって,エタン分子の 99\% がねじれ形配座になっている。

この2種類の配座は,60^\circ 回転すると相互に変換できる。この2種類の配座はすばやく変換し,常温での分離は難しい。

異性体のまとめ

配座異性体も含めると,異性体は,図2のように分類できる。

図2:異性体のまとめ

立体異性体は,配座異性体と配置異性体に分けられる。配座異性体は,結合の回転によって相互に変換するが,配置異性体は,結合が切れたり,新たな結合ができたりしなければ相互に変換できない。

プロパンの立体配座

プロパン \mathsf{CH_3-CH_2-CH_3} について,ねじれ形配座と重なり形配座を写真5〜8に示した。ねじれ形配座が最も安定で,重なり形配座が最も不安定である。

写真5:プロパンのねじれ形配座
写真6:プロパンのねじれ形配座(単結合の一方の端から見たとき)
写真7:プロパンの重なり形配座
写真8:プロパンの重なり形配座(単結合の一方の端から見たとき)

また,プロパンのこれら2つの立体配座について,ニューマン投影式は図3のようになる。

図3:プロパンの2つの立体配座

シクロヘキサンの立体構造

シクロヘキサン \mathsf{C_6H_{12}} は脂環式飽和炭化水素で,6個の炭素原子間はすべて単結合である。環状になった6個の炭素原子は,同一平面上にはなく,写真9,10のようないす形と舟形のいずれかになる。このとき,\mathsf{C-C-C} がなす角は約 110^\circ になる。

写真9:シクロヘキサン(いす形)
写真10:シクロヘキサン(舟形)

シクロヘキサンの炭素原子間の単結合は,結合を軸として回転ができるので,いす形と舟形は,結合の回転で相互に変換できる。いす形と舟形は立体配座で,互いに配座異性体である。

炭素原子に結合している水素原子の位置は,いす形と舟形でそれぞれ決まっている。写真11〜14のように,舟形は水素原子どうしの重なりが多くて位置が近いため,いす形よりも不安定になる。

写真11:シクロヘキサン(いす形)
写真12:シクロヘキサン(いす形)
写真13:シクロヘキサン(舟形)
写真14:シクロヘキサン(舟形)

シクロアルカンのシス-トランス異性体

アルカンの炭素原子間の単結合は結合を軸にして回転できるが,シクロアルカンは環式構造であるため,環の上面と下面の回転はできない。

1,2-ジメチルシクロペンタンを例に考える。2つのメチル基 \mathsf{-CH_3} は,図4のような2種類の配置(シス形とトランス形)をもつ。これらは結合の回転では相互に変換できない配置異性体で,シス-トランス異性体である。

図4:1,2-ジメチルシクロペンタンのシス-トランス異性体

シクロアルカンの置換体には,このようなシス-トランス異性体が存在することがある。