いろいろな効果器

声帯と音声言語の進化

声帯はヒトだけではなく哺乳類に広く見られる のど のひだ状の構造である。声帯がギターの弦のように振動することで発声が行われる。声帯でつくられた音がのどから口や鼻にかけての空洞(声道)で共鳴を起こすことにより,哺乳類は鳴き声を生み出す。ヒトの声道は霊長類を含む他の哺乳類よりも広く長いため,さまざまな音をつくり出すことができる。これにより複雑な音声言語を話すことが可能になっている。チンパンジーはヒトに最も近縁な霊長類だが,声道がせまく短いため,構造的な制約から複雑な音をつくることができない。また,生後すぐのヒトの赤ちゃんも声道がせまく短いため,同様の理由から複雑な発声ができない。

ヒトへと至る進化の過程のどの段階で音声言語が進化したのかは興味深い問題であるが,はっきりしたことはわかっていない。声道の大型化は直立二足歩行の進化と関係していると考えられている。しかし,のど はほとんど骨を含まない軟組織からできているため,化石記録から得られる のど の形態の情報は限られている。また音声言語の進化には筋肉によって のどの形をさまざまに変化させるための運動神経や,音声言語を処理する脳の機能が必要となる。こうした神経基盤もヒトと他の霊長類には違いがあることがわかっている。こうしたヒトに特有な複数の性質によって音声言語が可能となっているが,これらがいつ,どういった順番で進化してきたのかは現在のところ不明である。

【参考文献】

  • 西村剛 . 2008 . 話しことばの起源と霊長類の音声—古人類学と生物音響学— . Anthropol Sci (Jpn S) , 116, 1–14.
  • 奈良貴史 . 2016 . 人類進化の負の遺産 .バイオメカニズム , 23, 1–8.

【参考ウェブ】