【進化View】植物と昆虫の軍拡競争

植物と昆虫の軍拡競争

昆虫のような植物を利用する生物への防御として,植物は毒性の物質などをつくり出す能力(化学的な防御)を進化させてきた。また,植物を利用する側の昆虫は,解毒能力を進化させてきた。たとえばアブラナ目の植物は,昆虫にとって毒となるカラシ油配糖体をつくることで防御をしているが,シロチョウ亜科のチョウはカラシ油配糖体を解毒する能力をもっているためにアブラナ目の植物を食べることができる。同様にセリ科やミカン科の植物は防御物質としてフラノクマリンを生産するが,アゲハチョウ属のチョウはフラノクマリンを解毒する能力をもっており,これらの植物を食べることができる。植物が進化させる化学的な防御とそれに対する昆虫側の対抗適応は共進化の一例であり,これは植食性昆虫が多様化した原因の1つではないかと考えられている。

シロチョウ亜科を中心とした系統樹を,それぞれのチョウが食べる植物の種類とともに表したもの。シロチョウ亜科の大半がアブラナ目の植物を食べていることがわかる。シロチョウ亜科と同じシロチョウ科に属するモンキチョウ亜科はアブラナ目の植物を食べないことから,カラシ油配糖体を解毒する能力はシロチョウ亜科ではじめて獲得されたと考えられる。なお,Aporiinaはバラ目の植物を食べるが,これはシロチョウ亜科の中で派生した分類群であると考えられる。

【参考文献】

  • Wheat CW, Vogel H, Wittstock U, Braby MF, Underwood D, Mitchell-Olds T. The genetic basis of a plant-insect coevolutionary key innovation. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Dec 18;104(51):20427-31.
  • Janz, N. Ehrlich and Raven revisited: Mechanisms underlying codiversification of plants and enemies. Annu Rev Ecol Evol Syst. 2011; 42(1), 71–89.
  • Allio R, Nabholz B, Wanke S, Chomicki G, Pérez-Escobar OA, Cotton AM, Clamens AL, Kergoat GJ, Sperling FAH, Condamine FL. Genome-wide macroevolutionary signatures of key innovations in butterflies colonizing new host plants. Nat Commun. 2021 Jan 13;12(1):354.