種間関係

共生

カンコノキという植物は,ハナホソガというガの仲間によってのみ送粉される。そして,ハナホソガは幼虫のえさとしてカンコノキの種子のみを利用する。そのため,両者の関係は相利共生関係である。しかし,ハナホソガが多くの卵をカンコノキに産み付け,ふ化した幼虫による果実あたりの種子の食害量が増えてしまうと,カンコノキが得る利益が少なくなってしまう。このように,カンコノキにとってハナホソガは花粉を運んでもらう相利共生者であると同時に,自分をだまして搾取してくる「裏切り者」でもある。

このような相利共生が安定して保たれている理由として,ハナホソガによる「裏切り」に対する「罰」をカンコノキが進化させたことが挙げられる。カンコノキは,ハナホソガが一つの花に多くの卵を産んだときや,産卵により傷ついた胚珠が多い場合,その花を果実まで成熟させずに落としてしまう。この機構によってカンコノキは,食い尽くしが起こる可能性が高い果実への無駄な資源の投資を事前に防ぐとともに,卵を多く産む「裏切り」を行ったハナホソガが卵を無駄にしてしまうという「罰」を加えている。カンコノキが進化させたこの「罰」に対して,ハナホソガは産卵数が少なくなるように進化することで,安定的な相利共生が保たれている。

図:残った花,落とされた花をそれぞれ50個抽出し,1つの花あたりの産卵された卵の数を調べた。カンコノキがランダムに花を落とすなら,残った花の割合は50%(破線)になると期待される。結果は,花あたり卵の数が多いほど残った花の割合が小さく,選択的に産卵数が多い花を落としていることが分かる。図の円の大きさは,観測された花の数に比例しており,ハナホソガは1つの花に1つの卵しか産まないことが多いことがわかる。

【参考ウェブ】

東京大学大学院理学系研究科附属植物園 川北篤研究室.コミカンソウ科とハナホソガ属の絶対送粉共生
https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/common/research/kawakita-lab/Phyllantheae-Epicephala_mutualism/Japanese.html

【参考文献】

  • 宮下 直, 瀧本 岳, 鈴木 牧, 佐野 光彦.生物多様性概論 ─自然のしくみと社会のとりくみ─.朝倉書店,2017
  • Ryutaro Goto, Tomoko Okamoto, E. Toby Kiers, Atsushi Kawakita and Makoto Kato, Selective flower abortion maintains moth cooperation in a newly discovered pollination mutualism, Ecology Letters (2010) 13: 321–329