遷移のしくみ

乾燥と貧栄養への適応

一次遷移の初期は土壌が少なく,一般に乾燥しており,栄養塩類も少ない貧栄養の状態である。これは,植物が育つのには適さない環境である。

土壌は,岩石が風化した無機物と,生物由来の有機物が混ざってできている。生物由来の有機物が溜まっていくことで,土壌は発達する。土壌は団粒構造というすき間の多い構造をしており,スポンジのように水を貯える保水力を持つ。また,植物の成長に必要な栄養塩類を保持する働きがある。

一次遷移の初期は,乾燥や貧栄養に適応した先駆種が優占する。先駆種は,こうした環境にどのように適応しているのだろうか。

先駆種である地衣類 は,キノコ・カビの仲間である菌類と,藻類(緑藻類)や原核生物のシアノバクテリアが共生しているものである。菌類は藻類に生育場所を与え,水分を貯え乾燥から保護する。藻類は光合成産物を菌類に提供する共生生活を行っている。地衣類は乾燥への耐性が非常に高い。また,シアノバクテリアの中には,大気中の窒素をアンモニアに変える窒素固定を行う,ヘテロシストという細胞をもつものがある。これにより,貧栄養の環境でも栄養分を得ることができる。

図1:地衣類の構造(緑藻・シアノバクテリアが両方共生しているカブトゴケの仲間)

草本の先駆種の例を考えてみよう。ススキは,葉肉細胞に二酸化炭素をオキサロ酢酸(C4化合物)として蓄えることができるC4植物である。このため,気孔をあまり開かなくても光合成を行うことができ,蒸散量を少なくできるため,乾燥した環境でも生育しやすい。また,ススキはアーバスキュラー菌根菌と共生しており,リンなどの栄養塩類をもらうことができる。このため,貧栄養の環境に適応している。

木本の先駆種の例を考えてみよう。ハンノキは窒素固定ができる放線菌の一種(フランキア)と共生しており,大気中の窒素をアンモニアに変えることができる。また,遷移の初期に森林を形成するアカマツは,外生菌根菌のマツタケと共生している。このように木本も窒素固定細菌や菌根菌と共生をして,貧栄養の環境に適応している。

アカマツとマツタケの共生

図2:アカマツとマツタケの共生

マツタケの菌糸は根より広範囲に土壌中に広がり,水や栄養塩類をアカマツに与える。

植物の代謝(光合成速度の違い)や,菌類や細菌類との共生などの視点で遷移を見ていくと,遷移の段階に応じた植物の環境への適応戦略が見えてくる。

【参考文献】

  • 柏谷博之.地衣類のふしぎ.SBクリエイティブ,2009
  • 齋藤雅典[編著].菌根の世界 菌と植物のきってもきれない関係.築地書館,2020
  • Grimm M, Grube M, Schiefelbein U, Zühlke D, Bernhardt J, Riedel K. The Lichens’ Microbiota, Still a Mystery? Front Microbiol. 2021 Mar 30;12:623839