【進化View】酵素ルビスコの能力

酵素ルビスコの能力

ルビスコ

光合成のカルビン回路(カルビン・ベンソン回路)でCO2(二酸化炭素)を固定する酵素リブロース二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼは,ルビスコ(Rubisco,Ribulose bisphosphate carboxylase/oxygenase)とよばれることが多い。

ルビスコは,大きなサブユニット8つと小さなサブユニット8つで構成されている(図1)。光合成の反応では,リブロース二リン酸(RuBP)とCO2から2分子のホスホグリセリン酸(PGA)をつくる反応を触媒する。

ルビスコの触媒活性

ルビスコの触媒活性は低く,種子植物の場合1秒間に3分子程度のCO2しか固定できない。通常の酵素が1秒間に1000分子程度と反応することを考えると,ルビスコの触媒活性の低さがわかる。この活性の低さを補うため,植物には大量のルビスコが必要であり,これが「地球上で最も多いタンパク質」といわれる由縁にもなっている。

ルビスコのO2との反応とC4植物

ルビスコは「カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ」であるので,CO2と同じ活性部位でO2(酸素)とも反応する。オキシゲナーゼ反応を含む反応系は,一般に「光呼吸」ともよばれていて,O2濃度が高くなるとルビスコの活性部位にO2が結合するため,炭酸同化作用が阻害されることになる。さらに,光呼吸ではCO2が放出されるため,固定されていた炭素が失われる(図2)。

光合成生物が地球上に誕生した約30億年前頃の大気には,O2はほとんど存在しておらず,逆にCO2濃度は現在の2,000倍程度もあったと考えられている。そのため,光呼吸による炭酸同化作用の阻害はほとんどなかったと考えられている。その後,酸素発生型の光合成生物の増加によって大気中のO2が増加して光呼吸が起こるようになった。

しかし,光合成生物はこのことに全く対処してこなかったわけではない。例として,C4植物における,CO2を濃縮するしくみの獲得が挙げられる。C4植物の光合成では,気孔でとり入れられたCO2は葉肉細胞でオキサロ酢酸(C4化合物)にとりこまれ,リンゴ酸にかえられたあと,維管束鞘細胞に輸送される。そこでCO2が放出されてルビスコと反応する(図3)。維管束鞘細胞ではO2に対してCO2の濃度が高いので光呼吸はほとんど起こらない。

能力の低いルビスコがなぜ使われ続けているのか

C4植物のように,ルビスコのCO2固定活性を高めるしくみをとり入れた植物もあるが,C3植物のようにそのままの形でルビスコを使っている光合成生物も多い。生物の進化を考えるとき,長い年月をかけて少しずつ遺伝子が変わって機能もより良いものに変わっていくと考えがちであるが,実際には「変わらない」ものも多い。たとえば,リボソームRNAの遺伝子は,広く多くの生物で保存されている。光合成のような重要な反応で中心的な役割を果たす酵素の遺伝子も,保存されてきたと考えられる。

なお,ルビスコがCO2だけでなくO2とも反応する酵素として誕生した理由については,諸説があって,はっきりした理由はわかっていない。

【参考文献】

  • 横田明穂.光合成CO2固定酵素研究の最前線.RADIOISOTOPES,1997,46巻,7号,p507–508
  • L・テイツ,E・ザイガー,I・M・モーラー,A・マーフィー(編集).テイツ/ザイガー 植物生理学・発生学 原著第6版.講談社.2017
  • 大山隆(監修).ベーシックマスタ―生化学.オーム社.2008

【参考ウェブ】