【研究の研究】Aさん

研究内容の概要を教えてください。

植物は動物のように動けませんが,光や水分,温度といった周りの環境に応答して細胞内の微細構造を変化させています。細胞の中で葉緑体やミトコンドリア,小胞体といった構造が形や配置を変えている様子を精確にとらえることで,生理現象にどのように影響を与えているかを知るために,電子顕微鏡を使った観察が行われていますが,内部構造を細かく見るためには試料を薄く切る必要があるため,これまでの研究では平面像での観察が主流でした。私は薄く切った切片を何枚も積み重ねて元の形を復元する三次元再構築法によって細胞の中の微細構造を立体的に解析することに取り組んでいます。病院に行くと骨や筋肉,内臓の立体模型が置かれていますが,作物の細胞の立体模型を農業や生物教育の場に普及させるのが私の目標の1つでもあります。

研究者もしくは生物学の道を志したきっかけはありましたか?

小学2年生のころ,父がミニトマトの苗を買って来て住宅団地の狭い庭に兄弟3人で植えましたが,誰も世話をせず(笑),仕方なく私が水やりをしていました。別にトマトは好きではありませんでしたが,収穫すると母が「買うと高いのよー」と喜んでくれて得した気分になり,それから中学校を卒業するまで我が家の家庭菜園係でした。自宅から遠い高校に進学したため3年間は野菜作りから離れていましたが,進路選択の際に好きだった植物に携わる仕事に就きたいと思い,大学は農学部に進学しました。農家になることも夢見たのですが,経営には自信がなく,迷っている間に大学院に進学して研究のおもしろさを知り,今に至ります。

学生時代のようすを教えてください。

高校の理科では,「男なら物理」とか「物理の方が就職に有利」などと進路指導の先生たちからはアドバイスされていましたが,自分は迷わず好きな生物を選択しました。理系の大学教員になった今も物理を選択しなかったことで特に困ったことはありません。ちなみに中学・高校を通じて一番苦手だった科目は数学で,生物の次に得意だった科目は国語でした。研究者は論文を書くのが大事な仕事の1つなので,語学力はある方で良かったなと思っています。

研究の世界に入る前に抱いていた「研究」のイメージと,入ってからの実際のようすに差はありましたか?

真面目で物静かな人が多い世界かと漠然と思っていましたが(もちろんそのような方も活躍されていますが),好奇心旺盛で落ち着きのない人たちもガヤガヤといるのが研究者の世界だと感じています。すでに知られていることを勉強することよりも,新しい知識や技術を生み出していくことが研究の本質なので,研究者はメディアクリエイター(情報発信者)の要素があり,“おもしろい(funではなくてinterestingですが)”を大事にする人たちの集まりだと思っています。

研究者としての将来の展望がありましたらお聞かせください。

進学や就職の際には,キャリアパスやライフプランをよく考えることが大事だとアドバイスをされますが,私自身はあまり先のことを考えても仕方ないじゃないかと思っています。なので,1年後2年後も自分の好きな研究が思い切りできるように目の前のことを精一杯楽しみながらベストを尽くすことだけ考えてます(それでいいのかは分かりませんが)。