タンパク質

グロビンタンパク質の進化

ミオグロビンとヘモグロビン

ミオグロビンとヘモグロビンは,どちらも鉄を含むヘムとグロビンタンパク質からできている。ミオグロビンは1分子(単量体)で機能するが,ヘモグロビンはミオグロビンと同様の構造のα鎖とβ鎖がそれぞれ2分子ずつ組み合わさった四量体となって機能する。ミオグロビンは筋肉の中にあって酸素を貯蔵する役割をもち,ヘモグロビンは赤血球の中にあって肺で取り入れた酸素を全身の細胞に運搬をする役割をもつ。

ミオグロビンのグロビンタンパク質は153個のアミノ酸からなり,ヘモグロビンのα鎖とβ鎖のグロビンタンパク質はそれぞれ141個と146個のアミノ酸からなるが,これらはよく似た構造と機能をもっている。

遺伝子重複とグロビンタンパク質の進化

ミオグロビンとヘモグロビンのα鎖,β鎖のグロビンタンパク質がよく似た構造と機能をもつのはなぜだろうか。それは,祖先型のミオグロビンの遺伝子から,遺伝子重複(注1)によって祖先型のヘモグロビンの遺伝子が生じ,さらに遺伝子重複が起こることで,現在のα鎖とβ鎖の遺伝子が生じたからだと考えられている。遺伝子の解析により,祖先型のミオグロビンの遺伝子から祖先型のヘモグロビンの遺伝子が生じた遺伝子重複と,ヘモグロビンのα鎖とβ鎖が生じた遺伝子重複は,ともに約5億年前に起きたと推定されている。

単量体ミオグロビンから四量体ヘモグロビンへの進化

ミオグロビンは単量体であるが,ヘモグロビンは四量体である。肺に比べると酸素の少ない筋肉にあって,ヘモグロビンから酸素を受けとるミオグロビンは,低酸素下で酸素と結合しやすい性質をもっている。それに対し,ヘモグロビンは酸素の多い肺で酸素を受け取り,酸素の少ない組織では酸素を放出する必要があり,図のように酸素解離曲線(注2) はミオグロビンとは違ったS字型曲線になっている。S字型曲線になる理由は,ヘモグロビンが四量体であることに起因する。四量体のうちの1分子に酸素が結合すると,立体構造の変化が起こり,他の分子が酸素と結合しやすくなる。さらにもう1分子に酸素が結合すると残りの分子は酸素とより結合しやすくなる。つまり,酸素の運搬においてヘモグロビンが四量体であることには重要な意味がある。

近年,祖先型のタンパク質をつくり,それらを調べることで,単量体から四量体への進化の道筋を明らかにしようとする研究が行われた。その研究によると,祖先型のミオグロビンは単量体であり二量体や四量体を形成しないが,遺伝子重複によって生じた祖先型のヘモグロビンは同じ分子が集まって二量体を形成できることがわかった。さらに,遺伝子重複によりα鎖とβ鎖が生じた後,遺伝子が変化して現在のヘモグロビンのようにα鎖とβ鎖の組み合わせで四量体を形成できるようになったこともわかった。

注1

ゲノム全体が重複した可能性もある。

注2:酸素解離曲線

O2分圧に対する酸素ヘモグロビンあるいは酸素ミオグロビンの割合の変化を示した曲線

【参考文献】

  • Bruce Alberts 他. 細胞の分子生物学 第6版. ニュートンプレス,2017
  • D・サダヴァ 他. カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第4巻 進化生物学. 講談社,2014
  • Pillai AS et al. Origin of complexity in haemoglobin evolution. Nature, 2020, 581(7809):480-485