【進化でつながるヒトと世界】ヒトは草食動物か肉食動物か

 ヒトが肉を食べるようになったのはなぜ?

ヒトは生態系においてどこに位置しているのだろうか。

ヒトは野菜や穀物を食べる草食(植物食性)動物でもあり,肉を食べる肉食(動物食性)動物でもある。しかしヒトの祖先は,樹上生活をおくる植物(果実)食性の動物であった。

肉を食べるようになったきっかけと考えられているのが気候変動である。250万年前に地球全体の気候が寒冷化したことで,水の蒸発量が減り,乾燥化して,乾燥化に耐えられる硬い植物が増えた。また,草原が増えたことにより,草食動物が増えた。アウストラロピテクス・ガルヒ(初期ホモ属の祖先種)は石器で捕食者の食べ残した肉を骨から切り離して食べたり,骨髄を食べたりするようになったといわれている。

肉食は脳の増大に影響を与えたといわれている。アウストラロピテクスの後に繁栄したホモ・ハビリスの脳容量は,アウストラロピテクスと比べると30%増加している。脳は非常に多くのエネルギーを必要とするが,肉食により効率的にエネルギーを得ることができるようになったため,脳を大きくすることが可能になったと考えられている。

 なぜヒトは肉も野菜も食べるの?

ビタミンCが欠乏すると,ひどい場合には歯茎や関節から出血し,高熱が出て死に至る壊血病になる。かつての大航海時代,長い航海でビタミンCの豊富な野菜や果物を食べられなかった船員たちを苦しめた病気である。多くの動物は体内でビタミンCを合成できるが,ヒトは,チンパンジーやニホンザルとも枝分かれしていなかった時代に突然変異によりビタミンCの合成に必要な遺伝子を失った。しかし,ビタミンCの合成に必要な遺伝子を失っても,草食によりビタミンCを得ることができたため,自然選択により排除されず,ビタミンCの合成に必要な遺伝子の欠損が後の世代に残った(遺伝)。肉から得られるビタミンCはわずかであるので,ビタミンCの合成に必要な遺伝子を失ったままのヒトは,ビタミンCを多く含む植物性食品を摂る必要がある。

一方,植物性食品のみを食べていると,動物性食品に含まれるビタミンB12が不足することがある。草食動物は胃に含まれる細菌がつくるビタミンB12を利用できるが,ヒトはこのような細菌をもたない。

このように,動物性食品,植物性食品のみでは不足してしまう栄養素がある。このため,ヒトは肉も野菜もバランスよく食べる必要がある。

 それぞれの生物の生き方

現生の生物がもつ姿かたちや生活のしかたは,進化の過程で獲得したものである。

例えば,動物食性動物と植物食性動物とでは歯や目のつき方が異なる。動物食性動物は両目が前向きについており,するどい犬歯をもっているが,これは獲物をしとめるのに有利に働いている。一方,植物食性動物では,両目が横向きについており,門歯や臼歯が発達している。これは,敵を発見することや,草を食べるのに有利に働いている。

植物でも,強光下でよく生育する陽生植物と,弱光下でも生育できる陰生植物があるが,これらも強光下と弱光下という,それぞれの環境に対して有利なものが生き残った結果生まれたものである。

キーワード

#突然変異

DNAの塩基配列,染色体の数や構造が変化すること。

#自然選択

環境に対して有利な形質をもつものは,生き残りやすく,より多くの子孫を残すこと。

#遺伝

親の特徴が子に受け継がれること。