【進化でつながるヒトと世界】ヒトの遺伝子はほかの生物と違うか

 ヒトとチンパンジーのDNAで,同じところ,違うところは?

ヒトとチンパンジーでは,DNAのつくりや、遺伝情報がアデニン(A),チミン(T),シトシン(C),グアニン(G)の4種類の塩基から構成されること,DNAの遺伝情報からタンパク質をつくる基本的な仕組みは同じである。しかし,DNAの塩基の並び方(塩基配列)には違いが見られ,その違いは約2%といわれている。DNAの塩基の並び方には生物の形質を決める情報(遺伝情報)がふくまれている。

 DNAが似ていても姿が異なるのはなぜ?

ヒトとチンパンジーのDNAの遺伝情報の違いは約2%しかないといわれているが,これらの姿かたちなどの形質は大きく異なる。DNAには,形質を決めるタンパク質をつくる遺伝子の他に,その遺伝子の現れ方の調節に関わる部分がある。同じ遺伝子をもっていても,からだをつくる発生の途中で,遺伝子の働き方が違うと,形質の現れ方が違ってくる場合がある。これは,同じ材料でも組み立て方が違うと,別のものができるのに似ている。チンパンジーとヒトの姿が大きく異なるのは,このような遺伝子の働き方の違いによるものだと考えられている。

 DNAの遺伝情報の違いはどう生まれる?

DNAの遺伝情報の違いは,DNAの塩基配列や染色体の変化(突然変異)の積み重ねによってうまれる。遺伝情報は世代を経るごとにわずかに変化し,それによってうまれたさまざまな形質をもつ個体のうち,環境に対してより有利な形質をもつものは生き残りやすい(自然選択)。このため,環境に対して有利な形質の遺伝情報は残りやすい。また,有利にも不利にもならない遺伝情報の変化は,偶然によって残ったり消えたりする(遺伝的浮動)。ヒトとチンパンジーのDNAの遺伝情報の違いは,このようにして長い進化の過程でうまれたものである。

キーワード

#突然変異

DNAの塩基配列,染色体の数や構造が変化すること。

#自然選択

環境に対して有利な形質をもつものは,生き残りやすく,より多くの子孫を残すこと。

# 遺伝的浮動

交配時の配偶子選択の偶然によって,遺伝子頻度が変化すること。