捕食と被食

進化と相互依存

食物連鎖の中で,食べられる側の被食者にとってみれば,捕食者はいわゆる天敵であり,食べられないようにする進化を遂げている。一方で,捕食者は被食者を捕えるべく進化を遂げている。例えば,アフリカのサバンナであれば,草食動物のインパラは時速90㎞で走ることができるが,捕食者のチーターは時速100㎞以上で走ることが可能である。運動能力を見ればチーターに軍配があがるが,インパラはジグザグに走るなど食べられないように工夫をする。こうした被食者の工夫もあり,チーターの狩りの成功率は25~40%程度といわれている。

この絶妙なバランスが結果として,互いを生かすことにつながっている。中南米のベネズエラにグリ湖という人工の湖がある。この周辺にはホエザルとそれを捕食するジャガーが生息している。グリ湖が造られる際にできた島には,ジャガーは生息せず,ホエザルのみが生息をしていた。ホエザルは雑食性であるが,その島の植物を食べ,一時は増えたがその後植物を食べつくし,個体数を大きく減らした。これは,肉食動物などの捕食者がいることで,草食動物が植物を食いつくさずに存続し続けられることを示していると考えられる。つまり,捕食者が被食者を食べ,個体数をコントロールすることで,互いが存続することができるのである。

アフリカのサバンナの話に戻すと,捕食者であるチーターの狩りの成功率が100%になれば,一時的にチーターの数は増えるが,被食者であるインパラなどが壊滅的に減るためいずれチーターは絶滅してしまう。インパラの逃走の速度や方法が進化し,チーターから逃げられる確率が100%になれば,一時的に数を増やすが,えさである植物を食いつくして絶滅してしまうこともある。狩りと逃走の確率が拮抗する程度の進化を遂げているものが,ちょうどバランスが取れて,持続的に生存し続けることができる。「食べる」と「逃げる」の進化の競争が終わることなくほどよく進化をしていくことで,相互依存の関係にある両者が存続することができるのである。

【参考文献】

  • ルーク ハンター[著],プリシラ バレット[絵],山上 佳子[訳],今泉 忠明[監修].野生ネコの教科書.エクスナレッジ,2018
  • ウィリアム ソウルゼンバーグ[著],野中 香方子[訳].捕食者なき世界.文春文庫,2014
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