葉緑体と光合成色素

光合成色素と生物の系統

光合成色素は,光合成をするときに光を受容するアンテナの役割をする。図1は,植物(コケ植物,シダ植物,裸子植物,被子植物),緑藻類,紅藻類,褐藻類,ケイ藻類の系統を,それぞれのもつクロロフィルの種類とともに表したものである。植物は,クロロフィルaとクロロフィルbをもち,緑藻類と同じ種類の光合成色素をもっている。このため,緑藻類,紅藻類,褐藻類,ケイ藻類などの藻類がある中で,陸上植物は緑藻類と近縁であると考えられる。

クロロフィルは生物の歴史上,どの生物がはじめに獲得したものなのであろうか。まず,酸素を発生しない光合成をする光合成細菌がバクテリオクロロフィルを獲得した。次に,バクテリオクロロフィルの代謝経路が変化して,シアノバクテリアの祖先である原核生物 がクロロフィルaを,その後にクロロフィルbを合成する代謝経路を獲得し,酸素を発生する光合成を行うようになったと考えられている。そして,このクロロフィルaとbをもつ原核生物が,植物や緑藻類,紅藻類の祖先に細胞内共生して葉緑体になったと考えられている(これを一次共生という,注1)。さらに,褐藻類やケイ藻類の祖先に,紅藻が細胞内共生して葉緑体となったと考えられている(これを二次共生という)。

しかし,そうであるならば,図1のすべての藻類や植物はクロロフィルaとbをもつはずであるが,紅藻類や褐藻類,ケイ藻類がクロロフィルbをもっていないのはどうしてだろうか。

進化の過程で,紅藻類はクロロフィルbを合成しないようになったと考えられている。その原因は不明であるが,紅藻は比較的水深が深いところに生育し,青色や緑色の光を利用して光合成をするため,青色や緑色の光を反射する(吸収しない)クロロフィルbを合成しない方が有利だったのかもしれない。ただ,クロロフィルaは光合成の光化学系において,反応中心クロロフィルになるため必要であったのであろう。

さらに,紅藻が褐藻やケイ藻の祖先に二次共生した前後で,この祖先がクロロフィルcを合成する代謝経路を獲得し,褐藻やケイ藻がクロロフィルcをもつようになったと考えられている。

また,葉緑体の構造からも進化の道筋を伺い知ることができる。紅藻類や緑藻類,植物の葉緑体は2重包膜の構造をもつので,一次共生によるものであるが,褐藻類やケイ藻類の葉緑体は4重包膜をもつことから二次共生によるものであると考えられている。

藻類にはこれ以外にもハプト藻類,渦鞭毛藻類などのさまざまなものが存在しており,それぞれがもつ光合成色素や葉緑体の構造からどのように進化してきたのかを考えてみるとおもしろいであろう。

注1

一次共生したシアノバクテリアの祖先がもっていた光合成色素については諸説あり,クロロフィルaのみであったとする説もある。

クロロフィルbの合成に関わる酵素遺伝子(CAO遺伝子)の解析結果によると,一次共生したシアノバクテリアはクロロフィルaとbをもっていたと考えられており,本解説ではこの説をもとにしている。

【参考文献】

  • 日本藻類学会.21世紀初頭の藻学の現況.2002

【参考ウェブ】