適応免疫

MHC分子の多様性と配偶者選択

MHC分子は脊椎動物に広く見られる異物の識別に働くタンパク質で,その遺伝子は複数の遺伝子座に存在する。また,同じ遺伝子座にも多くの対立遺伝子があることが知られており,同一個体でも多様なMHC分子を生産することができる。親の視点から考えると,自身と異なるMHC分子の型をもつ個体や,多様なMHC遺伝子をもつ個体と配偶することが適応的だと考えられる。なぜなら,多様なMHC分子をもつ子孫を残すことができれば,そうした子孫は病原体への耐性が高くなり,生存率も高くなると考えられるためである。実際に,MHC分子が配偶者選択に関わっていることが多くの脊椎動物で明らかとなっている。

イトヨ(魚の一種)などの一部の生物では,MHC分子の型が匂いにより識別できることが知られている。こうした生物では,MHC分子の型にもとづく配偶者選択が匂いを介して行われていると考えられている。こうした配偶者の好みは性選択の例である。同様の例はヒトでも知られている。

【参考文献】

  • Milinski , M. , Griffiths , S . , Wegner , K . M . , Reusch , T . B . H . , Haas-Assenbaum, A . , Boehm , T. 2005 Mate choice decisions of stickleback females predictably modified by MHC peptide ligands. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 4414–4418.
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