内分泌系とホルモンの働き

つわり の進化

妊娠初期の妊婦には吐き気や嘔吐(おうと)などの症状が見られることが多い。こうした吐き気や嘔吐は つわり として知られている。つわり が生じる生理的なしくみははっきりとはわかっていないが,胎盤由来の柔毛性生殖腺刺激ホルモン(注1)が主要な原因と考えられている 。

妊娠初期の胎児では,母親が摂取した食物に含まれる毒素によって,器官の発達に異常が生じやすい。妊娠初期の胎児を毒素から守るしくみとして,食物に含まれる毒素をとり入れないように つわり が進化してきたと考えられている。これに関して,つわり の症状である吐き気と嘔吐がよく現れる時期と,胎児の器官形成が毒素に対して感受性が高い時期(毒素による影響を受けやすい時期)は対応することが知られている(図1)。

また実際に,重い つわり を経験する妊婦ほど流産などのリスクが低いことも知られており,つわり によって胎児を守っていることが示唆される(図2,図3)。

さらに,食文化の特徴が異なるさまざまな国で つわり と食物との関係に関する研究も行われた。この研究では,肉や卵,刺激物などのリスクの高い食品(注2)を摂取することと つわり の症状が現れることとの関連が示唆されている。 

注1

柔毛性生殖腺刺激ホルモン(hCG)は,胎盤から分泌されるホルモンで,卵巣にある黄体の発育を促す働きがある。多くの妊娠検査薬は尿に含まれる柔毛性生殖腺刺激ホルモンを検出している。黄体は,黄体ホルモンを分泌し,黄体ホルモンは受精卵の着床・妊娠の維持などに働く。

注2

肉や卵など,動物性食品には,寄生虫や病原体などが付着していることがあるため,胎児や免疫力の低下している妊婦に害を及ぼすことがある。

【参考文献】

  • バートン ,N . H . 他著.宮田隆 , 星山大介 監訳.進化-分子・個体・生態系-,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2009
  • Flaxman, S. M . & Sherman, P. W. 2000 Morning sickness: a mechanism for protecting mother and embryo. Q. Rev Biol. 75, 113–148.
  • Pepper, G . V . & Roberts, S . C . 2006 Rates of nausea and vomiting in pregnancy and dietary characteristics across populations. Proc Biol Sci. 273, 2675–2679.