【進化View】種子形成における両親の対立

種子形成における両親の対立

被子植物で見られる3倍体(3n)の胚乳は,種子親(母親)と花粉親(父親)の利害対立によって進化したとする説がある。

ふつう種子親は1個体の中で多数の種子をつくる。受精ののち,種子親から供給された養分がおもに胚乳に蓄えられることで種子が成熟する。また,大きな種子ほどそこから生じる芽生えの生存率は高い。種子親から見ればすべての種子は自身の子なので,養分を均等に配分するのが多くの場合に適応的である。ところが,種子親がつくる多数の種子は,それぞれ異なる花粉親をもつのがふつうである。花粉親から見ると,種子親がつくる種子のうち一部のみが自身の子である。花粉親から見れば,他の種子の生存を犠牲にしてでも自身の子である種子が大きく成長した方が適応的ということになる。

種子親と花粉親は,胚乳に伝える染色体に化学的な修飾(注1)を加えることで胚乳における遺伝子発現を調節することができる。花粉親は種子の成長を促進するように,種子親は種子の成長を抑制するように胚乳での遺伝子発現を調節している可能性が指摘されている。また,胚乳には種子親由来のゲノムが2コピーあるため,種子親による制御の方が強い可能性も指摘されている。実際トウモロコシでは,胚乳に含まれる花粉親のゲノムのコピー数が増えると胚乳での細胞分裂が非常に活発になり,また種子親由来のゲノムのコピー数が増えると胚乳での細胞分裂が低調になることが知られている。

注1

染色体を構成するDNAやヒストンにメチル化などが起こることを「修飾」という。修飾が起こった場合には,クロマチンの構造変化などの理由により,修飾を受けた遺伝子の転写が調節される。たとえば,ヒストンのある領域にメチル化が起こると,クロマチンの凝縮が進んで修飾を受けた領域にある遺伝子の転写が抑制されることがある。

【参考文献】

  • Cooper DC. Caryopsis development following matings between diploid and tetraploid strains of Zea mays, Am. J. Bot. 1951; 38:702-708
  • Moore T, Haig D. Genomic imprinting in mammalian development: a parental tug-of-war. Trends Genet. 1991 Feb;7(2):45-9.
  • Mora-Garcia S, Goodrich J. Genomic imprinting: Seeds of conflict. Curr Biol. 2000 Jan 27;10(2):R71-74
  • R Feil, F Berger, Convergent evolution of genomic imprinting in plants and mammals. Trends Genet. 2007; 23(4):192–199
  • Haig D. Kin conflict in seed plants. Trends Ecol Evol. 1987 Nov;2(11):337-340