チーターの遺伝的多様性
チーターは,地上最速の動物として知られています。かつてはアフリカ,アジア,ヨーロッパ,北アメリカに多種のチーターが生活していました。しかし,現代のチーターは1種でおもにアフリカに生育する非常に弱い種となっています。その主な要因の一つは,遺伝的多様性の著しい欠如です。

びん首効果と遺伝的多様性
約1万年前,地球の気候変動によって,チーターは急激に個体数が減少しました。この時,ほとんどの種が絶滅し,その結果として生き残った個体の遺伝子の種類が著しく限られてしまいました。このように個体数が急激に減少することをびん首効果といいます。さらに,19世紀から20世紀にかけての狩猟や密猟などによって,南アフリカで急激に個体数が減少し,遺伝子の多様性をさらに失いました。これにより,現代のチーターはすべてが非常に血縁の近い関係にあると言われています。
血縁の近い関係の個体同士で繁殖を行うことを近親交配と呼びます。個体数が減少したチーターで,この近親交配が進んだ結果,個体ごとの遺伝子の違いがほとんどなくなってしまいました。
南アフリカのチーター55頭の遺伝子を比較した研究では,52個の遺伝子に違いが見られるかが調べられましたが,驚くべきことに,まるで「コピー」のようにすべて同じであることがわかりました。これはほかのネコ科の動物に比べても非常にめずらしいことです。
遺伝的多様性の低下による脆弱性
遺伝的多様性の低さは,チーターの生存にさまざまな影響を与えます。通常,生物は多様な遺伝子をもつことで,環境の変化があっても生き残る個体が現れます。しかし,チーターはまるでコピーされたかのように遺伝子が似通っているため,特定の病気に対する抵抗力もほぼ同じです。命にかかわる可能性が高い病原体が,あるチーターの集団に広がれば,世界中のチーターにまで広がり絶滅してしまう危険性さえあります。
また,近親交配はオスの精子の質の低下も引き起こしています。異常な精子はうまく泳ぐことができないために,卵子と受精して子孫を残す可能性が減少します。
このように,一度個体数が減少すると,さらに個体数が減少し,急速に絶滅に向かう危険性が高まります。
【参考資料】
- O’Brien, S.J. East African cheetahs: evidence for two population bottlenecks?, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84 (2) 508-511, https://doi.org/10.1073/pnas.84.2.508 (1987).
