【進化View】獲得形質の遺伝

獲得形質の遺伝

ラマルクは19世紀に,よく使う器官は発達,あまり使わない器官は衰退し,これは遺伝によって後の世代にも伝わるという説(用不用説)を提唱した。この説は,「個体が一生の間に獲得した形質は遺伝しない」という考えのもとに否定され続けている。しかし近年,その考えを覆すような事象がいくつも報告されている。これらの事象のメカニズムは不明なものもあるが,その有力な候補としてエピジェネティクスが注目されている。

エピジェネティクスの1つであるDNAやヒストンへの修飾は,環境などの影響で変化し,遺伝子の発現量を変化させてその環境変化に対応する形質が現れるのを促すことがある。また,これらの修飾は,精子や卵を通じて次世代にも伝わることが示唆されている。

エピジェネティックな変化により「個体が一生の間に獲得した形質が遺伝した」事例として,センチュウのストレス耐性に関する研究を紹介しよう。この研究で,センチュウは一度軽度のストレスを経験するとそのストレスへの耐性を得られること,またこの耐性は子へと継承され,子はストレスを経験しなくてもストレス耐性をもつようになることが示された。

この現象において,一度ストレスを経験したセンチュウ(親)がストレス耐性を得た要因は,ヒストン修飾が変化したことによる。このことから,子がストレス耐性をもつようになったのは,ヒストン修飾の変化が子へと継承されたことによると考えられる。実際,親のセンチュウの生殖細胞でヒストン修飾を行う特定の酵素の働きを抑制すると,子にストレス耐性が伝わらなくなった。

これらのことから,親が環境変化に適応するために後天的に獲得した「獲得形質」が,エピジェネティックな遺伝情報として子に伝わったと考えられる。

【参考文献】

  • 編:種生物学会,責任編集:荒木希和子.エピジェネティクスの生態学 環境に応答して遺伝子を調節するしくみ.文一総合出版,2017
  • 更科功.若い読者に贈る美しい生物学講義 -感動する生命のはなし.ダイヤモンド社,2019
  • Kishimoto, S. et al. Environmental stresses induce transgenerationally inheritable survival advantages via germline-to-soma communication in Caenorhabditis elegans. Nat. Commun, 2017,8, 14031

【参考ウェブ】