熱水噴出孔の環境と生態系
深海の海底にある熱水噴出孔は,海底から煙突のように突き出すチムニーと呼ばれる構造を形成しており,最高で400℃に達する熱水を噴出します。この熱水には,硫黄化合物やメタン,重金属など,一般的な生物にとって有害な物質が多く含まれています。
そのような厳しい環境であるにもかかわらず,熱水噴出孔の周辺には多くの生物が集まる独自の生態系が形成されています。これは,熱水に含まれる化学物質をエネルギー源として,有機物を作り出す化学合成を行う生物がいるからです。地球上のほとんどの生態系が太陽の光(光合成)に頼っているのに対し,この生態系は熱水中の化学物質を頼りにして生きているのです。
硫黄細菌の共生戦略
熱水噴出孔の生態系で特に興味深いのが,ハオリムシ(チューブワーム)という生物です。長い筒状のからだを持つこの動物は,口も消化管も肛門もありません。その代わりに,体内に大量の硫黄細菌を共生させています。
ハオリムシは,熱水に含まれる硫化水素を体内に取り込み,共生している硫黄細菌に提供します。硫黄細菌は,この硫化水素を酸化してエネルギーを得ることで有機物を作り出し,その有機物をハオリムシに与えます。硫黄細菌とハオリムシのこの生存戦略は,深海生物が過酷な環境を生き抜くための巧妙な進化を示しています。
超好熱菌:真核生物の起源をさぐる鍵
熱水噴出孔で生きる微生物の中には,90℃以上の高温でも生きられる超好熱菌と呼ばれるものがいます。生物は,真核生物,細菌,アーキアという3つの大きなグループに分類されますが,超好熱菌の多くはアーキアに属します。熱水噴出孔の極限環境で生命が誕生したという仮説が提唱されており,そこで生きる超好熱菌は,生物がどのように誕生したのかを解き明かす重要な鍵となっています。
