理科便覧ネットワーク

農業技術を開発する

研究者(技術開発) 笛木伸彦さん [北海道立十勝農業試験場]

どのような仕事ですか

持続可能なかんきょうぜんがたのうぎょうこうちくするための農業技術を開発するのが私たちの仕事です。

まずはひんしゅかいりょう。安全で,おいしく,たくさんしゅうかくできて,病気に強く,肥料やのうやくが少なくてすむ,優れた作物品種を開発します。

次にじょう。安全でおいしい作物がたくさん収穫できて,作物が病気にかかりにくく,しかも環境に優しい土づくりを研究します。

そしてりょう・農薬。肥料や農薬の使い過ぎはよくありませんが,必要なときに必要なだけ使えば,安全でおいしい作物をたくさんつくる手助けをしてくれます。このような,肥料や農薬をできるだけ減らした,自然生態系と調和したのうほうを開発します。

さらに,しょくりょうそくきゅうおんだんなどグローバルな問題の研究にもとり組んでいます。ちなみに私の専門は土壌と肥料,そしてかんきょうぜんです。

なぜこの仕事を選びましたか

自分で言うのも変ですが,多感な中高生だったと思います。当時も今と同じく,世の未来を憂う不確かな情報があふれていました。絶望感に負けそうになりながらも,少しでも世の役に立つ力がほしいと思いました。

選んだのが農学,土壌学の道でした。現在,農業と土壌の研究を通じて,世の役に立っているか,未来の不安を払いのける力を得たか,と聞かれたら,自信をもって「はい」とは言えません。しかし,その努力を続けていられるげんしょくには,今もほこりをもっています。

この仕事で,やりがいを感じるときを教えてください

上で述べたような使命感からこの仕事を選びましたが,いつも使命感ばかりでは人間疲れ切ってしまいます。土壌と植物からなるせいたいけいには,おもしろいなぞがたくさんひそんでいます。苦労して研究し,なぞが1つ解けるとそのおもしろさに感動します。そして,解けたなぞが新しい農業技術を生み出すと,大きなたっせいかんを味わえます。仕事にだいを感じるのはそんなときです。

この仕事で必要な力・資格などを教えてください

農業分野に限らず,研究者になるにはいくつかのきついハードルを越えなくてはなりません。それゆえ私自身,一度は研究者をあきらめ,楽にしゅうしょくできる道を選んだことがあります。その後考え直し,てんしょくして現在の職になおしましたが,それには今考えてもぞっとするほどの努力が必要でした。学生の頃,悪友たちとあそほうけたりせずに,まじめに公務員試験の勉強をしていれば,こんな目にあわずにすんだのに。

しかし,こうかいはしていません。学生時代に友人達と遊び呆けたのも,仕事のかたわら寝る間をしんで公務員試験の勉強をしたのも,どちらも自分の財産です。そのときそのときの自分の内側からたパッションにしたがっただけです。そして,このパッション(情熱)こそが,研究者に最も必要な力であると考えています。

湧き出るパッションは,年齢ステージに応じて変わります。中学生には中学生の,高校生には高校生の,一人一人ちがうパッションがあるはずです。このエネルギーを無理におさえたりせずに,思う存分燃やしてほしいのです。スポーツでも,音楽でも,クラブ活動でも,悪いことでなければ何でもいいと思います。

一方で,研究者になるためには,勉強という地道な努力が必要なのは事実です。でも,その勉強のために湧き出るパッションを犠牲にしないでください。中学・高校・大学の思い出が勉強しかなかったら,研究者になったときに,どうやってパッションを燃やしたらいいかわからなくなるでしょう。