これまで海外で作品展示の際、「文字の変遷」について簡単な紹介をしてきました。
少しばかりまとまったものにしましたのでご高覧のほど。

「女」に見る文字の変遷

1 中国河南省、安陽。1899年の発掘で「殷の都(BC1500-1100)」の存在が明らかになりました。
2 おびただしい数の亀甲です。安陽、殷墟博物苑
3 甲骨に刻された「女」(殷代)
これから「女」という文字の変化をみていきます。
4 中国最重の青銅器、司母戊鼎  安陽出土(殷代)
この頃は「女」「母」、両方の意で使われています。
5 小子□卣  白鶴美術館 (殷代)
「手を前に交え、裾を押さえて跪く姿」です。
6 大盂鼎 北京国家博物館蔵  (BC1100年頃、西周初期)
7 彔□尊(西周初期)
8 大克鼎 上海博物館蔵  (西周中期)
9 魯大司徒□ (BC720-220、東周)
10 石鼓 北京故宮博物院蔵 (BC374頃)
石刻では最古のもので、ここに「如」の字があります。
11 権量銘  (BC221、秦代)
始皇帝は度量衡の原器(青銅器、鉄器)を広く領布。
始皇帝の「始」の女偏の中心線が垂直から、斜めへと変化しています。
12 漢代木簡  (前漢末期)
13 元嘉元年画像石題  (AD151、漢代末)

漢代(BC206−AD220)は横に広い形の隷書体の石刻が盛んとなり、青銅器は姿を消していきました。有名な碑の「女」をさがしてみます。
14 乙英碑 (AD153、 後漢)
15 礼器碑 (AD156, 後漢)
16 曹全碑 (AD170, 後漢)
17 校官碑 (AD181,  後漢)
18 漢代末の行書体です。祭邑(AD133-192)
19 漢代末の草書体です。張芝(−AD192)
20 宣示表(鐘繇の楷書体です)
 −魏(AD151-230)
21 士孫松墓志(AD302−西晋)
22 楼蘭出土残紙 (魏、晋)
 紙に書かれた最古のもので、隷から移行期の
 草、行、楷が見られます。
23 諸物要集経(写経残巻)(AD296−西晋)
24 書聖といわれる王羲之(321-379―東晋)の行書です。
二謝帖、
奉橘帖
「安」の草書体(王羲之)長風帖
25 洛神賦(王羲之の子の王献之、344-386)の楷書です。(東晋)
26 北海王妃墓志(AD510)
北魏(AD386-535)には盛んに楷書細字の墓誌銘が作られました。
27 張黒女墓志 (AD531−北魏)
28 龍蔵寺碑 (AD586)
 隋代(581-618)にも墓誌が盛んです。
29 蘇孝慈墓志 (603,隋)
30 美人董氏墓志 (597,隋)
31 蘇王華墓志銘 (欧陽詢,619)
 唐代(618-907)になると、隷書体は消えて、
完成された草、行、楷のオン パレードです。
32 隋清娯墓志銘 (褚遂良、651−唐)
33 書譜 (孫過庭、648-703−唐)
34 自叙帖 (懐素、737−?−唐)
35 孔子廟堂碑 (虞世南、626―唐)
36 顔勤礼碑 (顔真卿、779―唐)

37 法華経義疏 (聖徳太子、615―飛鳥)現在残されている日本最古の書です。飛鳥、白鳳、奈良時代は仏教伝来と共に写経全盛で書き手は渡来人あり、日本人あり。百済を経由したもので、北魏、隋の墓志銘を書いています。
38 紀吉継墓志 (飛鳥)
39 聖武天皇勅旨一切経(天平6年―734)
40 光明皇后発願一切経(天平15年−743)
41 紺紙銀泥二月堂焼経
 (寛文7年の火事で焼けたもの)
42 過去現在因果経
 奈良時代(710-794)
43 風信帖 (空海、774-835―平安初期)  ☆三筆―空海、逸勢、嵯峨天皇
44 (橘逸勢、778-?,―平安初期)
45 光定戒牒 (嵯峨天皇、−平安初期)
46 屏風土代 (小野道風、896-966−平安中期)
  ☆三蹟―道風、佐理、行成
47 恩命帖  (藤原佐理、944-999―平安中期)
48 白氏詩巻 (藤原行成、972-1027―平安中期)
49 倭漢朗詠抄 (藤原公経、?-1099−平安中期)
「女」の草書体より「め」が、「安」の草書体より「あ」が作られました。

 漢字草書体より「かな」が、楷書体の一部をとって「片カナ」が作られました。平安初期には行書体、 中期には草書体が多くなり、以後仮名の全盛となります。

 この頃で現行書体はすべて完成の域に達し、以来脈々と受け継がれ、私達の文字に対する美意識の 根幹をなしています。私達は篆、隷、草、行、楷、ひらがな、カタカナを巧みに使い分けて、このことは 世界の人々の驚嘆するところです。

 ルーツから変化の一部始終をつぶさに見せて、しかも今なお使われている、こうした文字が 世界中で他にあるだろうかと、感じいってしまいます。    2007,6月記

  出典 中国書法通鑑   河南省新華書店
     商周青銅器銘文選 文物出版社
     書道全集     河出書房
     金文集      二玄社
     書の歴史     二玄社


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