アクティブ地理 インタビュー特集

関東地方

生産農家と消費者の橋渡し
丸山信次さん

東京都中央卸売市場築地市場卸売会社 (東京シティ青果)

インタビュー

農林水産大臣の許可を得て,東京都の設定する市場で青果物を生産者から預かり,仲卸業者・小売業者などに販売する(卸す)仕事です。お客様としては,築地市場では,仲卸業者は107,小売・業務加工業者などが750くらいです(2010年2月現在)。一年通しての安定入荷・集荷に努め,適正価格で販売しています。
基本的には,預かった青果物を生産者の代理で売りさばく仕事です。近年は預かるのではなく,入荷者から購入して販売する(いわゆる買い付け品の)割合が30%程度に増えてきています。輸入果物・青果物の増加,商社,農業法人団体など,入荷先が多様化してきたためです。農業法人団体からのものであれば,われわれが購入した時点で,特定の加工業務業者など買い手が決まっているものが多いです。レストランなどでは,1年間通して同じくらいの価格で野菜が購入できることを希望します。そのレストランを主力に契約して生産するという農家が増えてきました。しかし,買い手の見込みがなくても買い付けるものもあります。例えば産地が非常に限られているものや,絶対的な数量の少ない希少野菜など,産地であらかじめ値段が決まっているものは買い付けします。

あります。生産者と仲卸業者や小売業者からの相互の要望をそれぞれに伝えることはよくあります。ニーズ(要望)の多様化により川下(小売)の情報を産地に伝えて,品目だけでなく,数量の要望も応えられるように工夫しています。将来的にニーズがあるので,今からつくり始めてほしいなど,すでに取り引きのある生産者,あるいは新興産地も開発しながら,仲卸業者・小売業者の希望に沿うよう入荷・集荷に努めています。仲卸業者・小売業者は,年中,安定した価格で,安定した数量を供給してもらえることを望んでいます。その要望に応えるように苦労しています。
かつては各産地・各エリアで作られる作物はだいたいの住み分けができていました。しかし,ニーズの多様化や気象の変化により,今までどおりの方法では対応しきれなくなってきています。

江戸東京野菜の復活・普及に努めています。もともと仲卸業者・料理屋で江戸の伝統野菜をあつかっている業者はありました。5-6年前ころから,都内で昔ながらの野菜をつくっている人に,江戸野菜としてブランド化できないか働きかけ始めました。地産地消,京野菜・加賀野菜などの伝統野菜のブームもあり,仲卸業者からの要望でもあります。
どんな野菜が江戸の伝統野菜として紹介できるのか掘り起しから始まり,育ててもらえないか産地にお願いして回っています。基本的に,年代として江戸時代からつくられていたもの,場所として江戸エリアでつくられているものという形で,世田谷・江戸川・葛飾などの農家に声をかけて,現在10数品程度の品ぞろえです。
現在東京都には,登録された農家数は1万人程度です。しかし実際に出荷して生計を立てている農家はもっと少ない。今続けている農家も高齢化が進んでいます。産地と直接取引していたような割烹料亭もありましたが,コスト高になる上,安定供給が難しくなります。わたしたち卸売会社が間に入り,生産地から青果物を集め,年中,安定した価格で,安定した物量を供給してもらうように取り計るよう要望がありました。
あちこちに足を運び,伝統野菜をつくってもらえないか産地にお願いしています。高齢化が進んでいる上,少量生産なため,築地まで運ばず産地の近くで販売してしまうケースも多くあります。築地まで出荷できないような高齢農家の場合は,運送会社や宅配便などにたよって市場まで出荷しています。

基本的に,関東ではほとんど競り上げ方式です。競り上げ方式とは,最低価格から始め,購入希望者が価格を提示していき,最終的に一番高い価格を提示した業者に販売する方式です。現実的には午前8時,9時に全国の市況が入るので,東京も大阪もそんなに大きく価格が違うことは起こりにくいです。
水産物市場と異なり,青果物市場では,仲卸業者と小売業者が同時にセリに参加し,高値を付けた方に競り落とされます。
ヨーカ堂・イオンなどの大手スーパーが独自流通野菜を,例えばキャベツ98円などの価格で全国販売したりすると,その価格に影響を受けることもあります。自由競争とはいえ,いろいろな影響を受け,大体同じ価格帯に収まってしまうことが多いです。

輸入野菜も国産野菜も競りにかけるときは一律同じであまり変わりはありません。ただ,最低価格が変わるということはあります。日本は世界的に見て国産野菜が高値で取り引きされています。そのため,中国も日本の市場めがけて輸出しています。現在では,中国のGNPも上がっており,ひところのように中国産のものが国産に比べてきわめて低いということも減り,物によっては国産とあまり変わりのない値段でスーパーに並んでいるものも見られます。

基本的には即日販売で行うことになっているので,ほとんどありませんが,現実的にはあります。
残ったものがカボチャ・トウガンなど,品質が落ちないで日持ちするものであれば翌日販売することもあります。
残ったものが葉物・果菜類(きゅうり・トマト・なすなど)など日持ちしにくいものであれば,競りではなく加工業者などに相対(あいたい)売り(話し合いによる売買)で販売します。

ニーズが多様化した上,消費が低迷しています。特に,少子高齢化が進み,大家族が減ったこともあり,キャベツ・大根・ハクサイなどの重量野菜の消費が進みません。
イタリア料理に向く野菜,フランス料理に向く野菜など,珍しいもの・少量のものの品目数が増えた上に,それらのものを年中,安定した価格で,一定の量を供給していくことが非常に難しい。生産農家の新規開拓などを行って,仲卸業者・小売業者の要望に応えています。しかし,産地・生産者を見つけたとしても,生産者の希望に沿う価格で売れるとも限らないため,折り合いが難しいです。

価格面,品質面とも,生産者とお客様,双方の要望をクリアできたときに非常な喜びを感じます。特に,農家の悩みの大部分が後継者不足のため,東京シティ青果からの要望が生産拡大につながって若手が戻ってきたという話を聞くとうれしく思います。