アクティブ地理 インタビュー特集

北海道地方

世界遺産・知床から地球全体の環境保護を考える
松田光輝さん

エコツアーガイド(知床ネイチャーオフィス)

インタビュー

知床を訪れた観光客に知床の自然を知ってもらうため,ともにフィールドを歩き,そこで見られる自然を解説する仕事です。
その他,知床特有の特殊な仕事かもしれませんが,テレビ局など,マスコミが知床を取材に訪れるときに,どこを紹介するとよいかをコーディネートしています。

自然を保護したい,知床の自然を守って生きたいという思いです。ガイドの仕事が,なぜ自然保護につながるのか。それは,自然の中に人が入っていくだけでは自然は壊れません。何をしてはいけないかが周知されておらず,自然と接するためのルールづくりがなされていないため,自然を好きな人が自然に入り,知らずに環境を破壊しているようなことがあります。例えば鳥の繁殖行動をじっと観測することが影響をあたえてしまったり,野生動物にエサをあたえてしまったり。野生動物は厳しい環境に生きているため,かわいそうだから良かれと思ってエサをあげる人がほとんど。ルールを教えることで自然を守りたいと考えています。

世界的な大型動物が多くいること。シカ,クマなどや,鳥でみればオオワシ,シマフクロウ,オジロワシなど。知床は,大きな生態系のエネルギー循環が行われているところ。陸で植物によってつくられた栄養が海に流れたくさんのプランクトンを育て,それを食べてサケ・マスが海で育ち,川に帰り陸上の大型動物に食べられ,陸上の動物の糞が大地を豊かにするなどの循環ができています。サケ・マスは例えばアラスカ・シベリアなどの海域でも広く回遊して生活しており,エネルギー循環が広範囲であること。自然の循環がどこかで停滞すると,豊かになれません。
それから,季節が豊かであること。四季ではなく二十四節気(注)で異なります。例えば,3月下旬から流氷が去っていくと,波の音と浜の香りが戻ってきます。次に雪が解け土が香り,それから夏鳥が鳴き出します。それから桜が5月中旬から下旬にかけて咲くなど,同じ春でも変化の度合いが豊かにあります。時期をずらしてくると,同じ場所でも全く違うように感じます。
注:二十四節気…1年を24等分したもの。

中長期的に自然を保護するために,自然を守る意識の高いガイドを増やしています。ガイドの養成コースの講師もしています。他の地域のガイドの教育もしています。学生をインターンで受け入れています。また,JICA(国際協力機構)などの事業のひとつで,途上国など,海外からエコツーリズムの研修を受け入れています。また,地元の子どもを自然に連れて行き,自然に親しませ,自然の必要性を知ってもらい,自然に対する知識を増やす教育活動も行っています。

一つに,たくさんの人に自然を好きになってもらい,自然を身近に感じてもらうこと。次に,自然を見る目を養うこと。それは,自然を楽しく見るためでもあるし,自然に対する配慮を身につけるためでもあります。例えば,芝生を歩くように草原を歩き,知らずに花の芽をつぶしたりすることのないように。
知床に観光に訪れた人に,自然を守るために日常生活でもできることがあるということを話しています。森に人が入らなくても,酸性雨が降れば森は破壊されてしまいます。温暖化の影響か,オホーツク海の流氷が減る傾向も見られます。自然に入る人ではなく,地球上に住む一人ひとりの人が自分のできる範囲でライフスタイル・価値観を見直し,それを徐々に増やしていくこと。日常生活で自然を保護するためにできることはものすごくたくさんあります。地球は一つで,知床も経済活動の場も全部つながっています。一つひとつの人間の行動が影響を及ぼし,良い方向にも働きます。
グローバルな環境問題を解決し,環境に配慮した経済活動にかえていかなければ,知床の環境を守ることはできません。

人から認められるようになったことです。以前は自然を見せるだけでお金を取ることに,地元の観光関係の人からは白い目で見られていました。自然はタダのものなのに,お金を取ったら観光客の評判を落とすといわれます。現在は観光協会の理事を務めるようになるまでに認められるようになりました。
ガイドの役割が重要だと認められ,ガイドの必要性,自然をみせるメリットがわかってもらえるようになったことに成果を感じます。エコツアーに参加するお客さんが増えています。理解者が増え,ガイドの仲間も増えてきました。

自然に対する興味の度合いが異なるお客様に対して,それぞれが楽しめるツアーをご提供すること。自然に対する知識が豊富なお客様に対しても満足いくツアーを用意できないといけません。自然に対する知識があまりない人でも,わかりやすく,楽しめるようにうまくツアーを組み立てなければなりません。天候にも左右されます。歩きなれているお客さんかそうでないかで,悪路でも大丈夫か,紹介するコースも変わってきます。
それから,プロとしてのお客様を満足させる技術を磨くこと。ボランティアとプロの違いは,自分の満足度の違いかと思います。ボランティアはガイドの満足度が高く,プロはお客様の満足度が高い。人の心を打つようなツアーを提供したいと思います。一日,二日の活動ではなく,継続してやっていくことが必要です。そのため,経済的にもやっていけないといけません。ガイドだけで食べていくのはギリギリな感じがあります。もう少し社会的に認められて経済的に豊かになるとよいと思います。
また,失敗して,失敗だと気付けないようではいけません。失敗ツアーを失敗ツアーだと察知することができ,それを次のツアーにつなげるようにしなければいけません。
お客さんにただたくさんの知識を提供すればいいというものではありません。わかりやすく組み立てる必要があります。いかにメッセージ性を持たせるか。それによって人の心に感動をあたえられるかどうかが関わってきます。
よく気をつけているのは,一次情報と二次情報を使い分けること。二次情報は書物を見たり人から聞いたりして得た間接的な情報。一次情報は自ら体験して得た情報。例えば,「ヒグマはミズバショウを食べます」は,少し本を読めば誰でも話せること。「ヒグマがミズバショウを右手で掘って,手で持って食べていました」は,実際に見ていないと話せません。そしてただ見ただけを語るだけではなく,どうしてわざわざ掘って食べるのか,科学的に裏づけできなければなりません。自分で実際に経験したことを,どうしてそうなっているのかしくみを理解した上で語ると,話に深みが出ます。お客さんの想像力もかきたてられます。
知床の自然だけでなく,身近な自然,他の自然豊かなところに行ったときでも楽しめるような自然の見方をレクチャーしています。それによって,お客さんに常に自然に関心を持ってもらえます。

自分たちの活動が,自然の保護に少しでも寄与しているところ。自分たちの役割が重要だと思えるところ。
それから,人からお金をもらって直接感謝される仕事はそんなにないと思います。物をつくっている人も,直接お客様から言葉をいただくことはほとんど無いはず。ガイドして,お金をもらって,直接感謝の言葉を聞けることです。

自然をガイドする仲間を増やし,一人でも多くの人に自然を好きになってもらって,環境を守っていく行動を広げていきたいです。
それから,若い人からあこがれられるような,夢を持たせられる,経済的に十分やっていけるような職業に育てていきたいと思っています。