放射線の影響

放射能をもつ放射性同位体

原子は,陽子と中性子からなる原子核と,そのまわりに存在する電子でできている。陽子の数が同じで中性子の数が異なる原子が存在することがあり,それらを同位体という。たとえば,炭素(陽子の数が6)は,中性子の数が6,7,8の3種類の同位体があり,それぞれ炭素12,炭素13,炭素14とよぶ。

原子の構造 例:ヘリウム原子 He

 

電子や原子核などの粒子が高速で飛んでいるものを放射線という。放射線は,他の原子や分子に作用して,原子や分子の構造を変化させる。放射線を出す能力のことを放射能,放射能をもつ同位体を放射性同位体という。たとえば,炭素14は放射性同位体である。

おもな放射線

放射線に曝(さら)されることを被曝(ひばく)という。放射線が体内を通過すると,からだを構成している分子,生命活動を行っている分子,遺伝情報を担っている分子などが損傷を受けることがある。

自然にある放射線と人工の放射線

自然の中にも放射性同位体がある。核燃料として知られているウラン235をはじめ,カリウム40やルビジウム87などのようにさまざまな放射性同位体が自然の中に存在している。また,宇宙からやってくる放射線(宇宙線)は,大気上空で炭素14や水素3などの放射性同位体をつくり出している。炭素,水素,カリウムなどは生物には欠かせない元素で,これらの放射性同位体も体内にとりこんでいる。このように,生物は自然にある放射線に曝されている。

おもな放射性同位体

核分裂によって莫大なエネルギーを得ることができ,人類はこの技術を活用してきた。しかし,核分裂によって新しい放射性同位体が生まれ,放射能汚染の危険が生じた。核施設では,放射性同位体を隔離し,放射線を外部に出さないように,厳重なルールやしくみをつくってきた。しかし,放射性同位体が環境に放出されたり,各施設での作業者が基準以上の放射線に被曝する事故が起こっている。

放射線の単位

外部被曝と内部被曝

体外からの放射線による被曝を外部被曝,体内にとりこんだ放射性同位体による被曝を内部被曝という。体内にとりこんだ放射性同位体は,特定の組織に蓄積することがある。体外に排出するか,放射能がなくなるまで,近距離で被曝し続けるため,健康への影響はより深刻になる。たとえば,甲状腺ホルモン(チロキシン)にはヨウ素が多く含まれるため,ヨウ素131がとりこまれると甲状腺に蓄積して甲状腺がんを発症しやすくなる。特に,子どもへの影響が憂慮される。
環境に放出された放射性同位体は,食物連鎖をへて濃縮され,ヒトが摂取する可能性がある。また,ラドンのように気体のものや,微粒子に付着して浮遊するものは,肺から体内に入る危険もある。

遺伝子の損傷と修復

生物には,傷を修復したり再生したりする能力がある。しかし,遺伝子が損傷を受けると,さまざまな生命活動に影響が出るばかりか,修復したり再生したりすることができなくなる。放射線は遺伝子の本体であるDNAに損傷を与えるため,生物にとって危険である。
ただし,損傷の程度によっては,DNAの修復が行われる。また,修復ができない場合でも,細胞が がん化 するのを防ぐため,アポトーシス(細胞死)を起こすしくみもある。

確定的影響と確率的影響

国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection; ICRP)は勧告で,放射線被曝による影響を確定的影響確率的影響に分類した。
確定的影響は,被曝があるレベル(しきい値)を超えなければ生じない影響で,しきい値を超えた場合は,被曝量に応じて影響も大きくなる。被曝による急性障害が該当する。頻繁に再生されている消化器内壁細胞や血液細胞などは影響を受けやすく,再生ができなくなり出血や貧血を引き起こす。
一方,確率的影響にはしきい値がなく,被曝量に応じて影響が生じる確率が高くなる。被曝による がん の発症や遺伝的影響などが該当する。低い被曝量でも,いつもDNAの修復がうまくいくわけではない。また,修復機能そのものが損傷を受けることもある。このようにある割合で遺伝子に損傷が残り,その影響で何年か後に細胞が がん化 すると考えられている。

確率的な影響の考え方

確率的影響については,十分な検証がされておらず,現段階では科学者の意見が一致しているわけではないが,健康に関わることであり,被曝線量を小さくする対策がとられる。

参考文献
  • 「放射能と健康」舘野之男(岩波書店,2001)
  • 「人は放射線になぜ弱いか」近藤宗平(講談社,1998)
  • 「からだのなかの放射能」安斎育郎(合同出版,2011)