リンゴを食べるーー木になるのは毎年おなじ実

先週の生物通信は,りんごに含まれる糖についてのお話でした。今週は,リンゴの実がなる仕組みについて,簡単に紹介したいと思います。

リンゴは,1本の木だけでは実をつけません。これは,自分の花粉とめしべの間で受精が成立しないためです。このような性質を「自家不和合性」といいます。自家不和合性は,同じどうしの交配を避け, 遺伝的に多様な子を残すための仕組みだと考えられています。なお,現在でもさまざまな植物について研究が進められているところですが,被子植物においては,約半分の種類が自家不和合性だといわれています。

この自家不和合性という特徴のため,リンゴ畑では,花粉の供給木として異なる品種のリンゴを植えることが多いようです。その場合には,マメコバチなどの昆虫によって花粉が運ばれ,2つの品種の間で受精が起こります。しかしそうだとすると,木になるりんごは,親であるリンゴの木とは性質の異なる,雑種になるのではないでしょうか。雑種になるということは,同じ木に去年なったりんごと,今年なったりんごでは,形質が変わってしまう可能性が考えられます。でも実際には,ある品種のリンゴの木には,毎年,同じような色合いや大きさ,甘さのりんごがなります。なぜでしょう。

私たちがふだん食べているリンゴの“果実*”は,母親のからだの一部が大きくなったものです。りんご以外にも,いわゆる果物とよばれているものは,母親の部分を食べています。母親の体細胞がもつ遺伝子のセットは基本的に変化しないため,毎年同じ形質の実をつけることができるのです。

りんごの中心にある種子は,受精の結果生じた子にあたります。子は雑種であるはずなので,りんごを食べたあとに種子をまくと,今までにない,新しい種類のリンゴの木が育つかもしれませんね。

*中学校や高校では,「子房が果実に変化する」と習います。しかし,リンゴについて一般的に果実とよばれている部分は,正しくは花の付け根の花托(花床)という部分が発達したものです。子房と同様に,花托も母親の一部ですが,本来の意味でいう果実は種子のまわりにあるしんの部分が相当します。

リンゴの花にとまるハチの一種
リンゴの花にとまるハチの一種