リンゴを食べるーー糖の移動

秋から冬にかけて店先にならぶ果物,りんご。品種や産地の違いから,甘さや色合い,大きさにもさまざまなものがあります。ところで,甘味の正体は糖ですが,これらの糖はりんごにもともとあったものなのでしょうか。多くのりんごは,なり始めはたいてい緑色で,熟すと赤や黄色に変化します。そして,緑色の果皮には確かに葉緑体が存在しています。私たちが食べているのは,光合成によってりんごの中でつくられた糖なのでしょうか?

植物では,細胞内の葉緑体において,光合成が行われます。人間にとってのりんごは,料理の材料として,またはそのままデザートとして味や果汁などを楽しむ果物の一つです。しかし,リンゴの木にとっては,光合成によってつくられた物質を蓄える,貯蔵庫(貯蔵器官)という大切な意味合いがあります。つまり,りんごに含まれる糖は,おもに葉でつくられた糖が移動してきたものです。植物のからだの中で,糖など代謝によって生じた物質が別の器官や組織へ運ばれることを,転流といいます。

光合成によってつくられたデンプンは,ソルビトールなどの転流糖に形を変えて,りんごまで運ばれます。その後,果肉の細胞の液胞に取り込まれ,成熟の過程で果糖(フルクトース)などに変換されます。一般的に,りんごは受粉から5~6ヶ月で成熟しますが,その細胞数は受粉後約1ヶ月で決まるとされています。1ヶ月を過ぎると細胞分裂はほとんど起こらなくなり,細胞の肥大によって実が大きくなっていきます。液胞内に取り込まれた転流糖は,細胞の浸透圧膨圧のバランス調節に利用され,細胞の肥大に貢献します。そして,肥大によって細胞が成長すると果糖やショ糖(スクロース)に変換され,りんごを甘く変化させます。
ある1つのりんごを考えると,果皮の細胞で行われる光合成の割合はわずかなので,盛んに光合成を行っている葉から糖を受け取って利用した方が,効率よく細胞を成長させることができます。なお,1つのりんごを成熟させるには,大玉の場合で60枚ほどの葉が必要だといわれています。

植物細胞の特徴として,原形質流動が見られることはよく取り上げられます。液胞が発達した大きな細胞において,原形質流動は物質を循環させその分布を均一に保つ役割をになっています。植物全体を考えると,葉でつくられた光合成産物がりんごなどからだの各部まで運ばれるには,細胞と細胞の間の輸送も重要です。物質は,原形質連絡とよばれる細い穴をとおって隣り合う細胞に運ばれますが,原形質流動の速度が下がるとこのような細胞間の輸送も少なくなり,からだの各部の成長に影響が出てしまいます。

ちなみに,りんごのみつは,転流糖が細胞と細胞のすき間にあふれ出たもので,果肉ほど甘くはありません。ただし,細胞がそれ以上果糖などに変換できなくなるために起こる現象であり,完熟のめやすになるため,蜜がたまっているりんごはたいてい甘いようです。