ゴキブリはなぜ逃げ足が速いのか

「もっとも嫌いな昆虫は何ですか?」
ある調査機関が約1万4000人を対象に行ったアンケートによると,全体の6割以上の人がこの問いに対して「ゴキブリ」と答えたそうです。

ゴキブリが嫌われる理由のひとつは,何と言っても,あの逃げ足の速さです。気付かれないように後ろからスリッパでたたこうとしたが,あっという間に逃げられて見失ってしまい,眠れぬ夜を過ごした経験がある人も多いでしょう。

そもそもゴキブリは,どうやって我々の動きを知るのでしょうか。
夜行性であるゴキブリの視力は,あまりよくありません。そのかわり,腹部の後端に尾葉(びよう)とよばれる2本の突起をもち,その表面の感覚毛の動きによって,敵がつくり出す空気の流れを知ることができます。「ゴキブリに立ち向かうときには,背後からではなく正面から挑め」とよくいわれるのは,このためなのでしょう。

危険を察知したゴキブリは,瞬時にからだの向きを変えて逃げ出します。尾葉に風を受けてから脚が動き始めるまでの時間は,わずか数十ミリ秒です。この反応の速さを生み出すのは,効率的に組まれた神経回路です。尾葉から入った敵の位置情報は,介在ニューロンによって胸部神経節に伝えられ,胸部神経節からのびる運動神経によって脚に直接命令が下ります。このシンプルな回路のおかげで,文字通り「頭で考えるより前に脚が動く」わけです。

反射的に逃げている割には,ゴキブリの動きは複雑に見えます。ある時は一直線に反対方向へ,またある時は真横へ,まれなケースでは,こちらに向かってくることさえあり,予測がつきません。これはなぜなのでしょうか。
最近の研究から,ゴキブリは,「好ましい逃げ方」をいくつか決めておき,その中から1つを選ぶ,という戦略をとっていることがわかりました。好ましい逃げ方,つまり候補となる逃走経路の多くは,敵に対して90度~180度の角度(敵から遠ざかる方向)に集中しています。複数の安全な候補の中から逃走経路を選ぶことで,行動パターンを敵に読まれることなく,しかしランダムに逃げるよりも確実に,逃げることができるのです。

最後に,足の速さの秘密に迫ってみましょう。
ゴキブリは,脚の付き方や関節の向きが少々特殊で,そのため安定した歩行が可能になっています。走行中も,常に3本の脚が接地しており,重心がぐらつくことがありません。急停止や方向転換が自由自在にできるのは,この歩き方のおかげです。全速力を出すときには,上体を起こして後ろ脚だけで立ち,大股でとび跳ねるように二足歩行することもあるそうです。ワモンゴキブリ(成虫の体長約40 mm)の場合,この走り方で,1秒間に体長の約50倍もの距離を走ることができます。同じ計算方法で比較すると,これはチーターの約4倍の速さに匹敵します。

気持ち悪がられることが多いゴキブリですが,こう見てくると,そのからだが実にうまくデザインされていることに感服します。とは言え,やっぱり私はゴキブリが苦手ですが…