発酵の文化

日本人は,古来から生物の“発酵”を利用してきました。発酵とは一般に,微生物が嫌気的に有機物(おもに炭水化物)を分解する反応をいいます。

日本の発酵食品には,おもに酵母,コウジカビ,乳酸菌が関わっています。これらの生物によって,酢やみそ,しょう油,日本酒,ぬか漬けなどがつくられている訳ですが,このように挙げてみると,意外と身近に多いと感じるのではないでしょうか。周りを見渡せば,そのほかにも発酵食品が見つかるかもしれません。(パン,ヨーグルト,チーズ,みりん,かつおぶし,…など。)

多くの発酵食品は,酵母や細菌の働きが複雑に絡みあってつくられています。例えば,乳酸菌は酸性の環境をつくり出すことでほかの微生物の増殖を抑え,酵母にとって働きやすい“場”を提供しています。また,カビによってつくられる糖分は乳酸菌や酵母の“えさ”になり,その働きを促進しているのです。

環境や文化が違えば,使われる微生物も異なります。この違いが食品の特徴につながることもありますが,分解されるもの,つまり微生物の“えさ”によっても,性質は大きく変化します。

和食に欠かすことのできない「しょう油」は,土地柄が色濃く出る発酵食品の1つです。関東地方を中心に発達した『濃口(こいくち)しょう油』は,日本でもっとも消費されているしょう油であり,その生産量は日本のしょう油生産量の8割を超えています。また,関西を中心に使われている『淡口(うすくち)しょう油』は,日本のしょう油生産量の14%を占めています。これらのしょう油は,蒸したダイズに炒ったコムギを混ぜて(ダイズ:コムギ=1:1),熟成させてつくられます。

一方,東海地方では,とろりと濃厚な風味と特有の香りをもつ『たまり醤油(しょうゆ)』が有名です。たまり醤油は,みそ玉(蒸したダイズをつぶして玉にしたもの。ダイズ:コムギ=9:1のものから,ダイズ10のものまである)にコウジカビを植え付け,熟成させてつくられます。熟成期間が1~3年程度と長く,この点でも濃口しょう油や淡口しょう油と異なります。なお,秋田県や能登半島,香川県などの特産に『魚醤(ぎょしょう)』がありますが,これは魚を塩漬けにし発酵させたものから抽出した液体のことで,広義にはしょう油に含まれます。

地球レベルで発酵食品を見てみると,微生物とその“えさ”の組み合わせはさらに多様であり,さまざまな食文化が存在します。

反応過程を目にする機会があまりないことから,身近で遠い“発酵”ですが,食文化とのつながりは深く,切り離すことはできません。

参考:キッコーマン しょうゆ博物館