トウカイコモウセンゴケの起源

モウセンゴケ類は,栄養分の少ない湿地に生える食虫植物です。葉の表面にある腺毛から出る粘液で虫をとらえて消化吸収します。 虫をとるのは,栄養分の少ない土地に生えるので,虫の体を分解して窒素やリンなどの栄養分を補給していると考えられています。

愛知県には,モウセンゴケ,コモウセンゴケ,トウカイコモウセンゴケという,よく似た姿をしている3種類のモウセンゴケの仲間が自生しています。

モウセンゴケ (2010年6月5日 愛知県知多郡阿久比町)
モウセンゴケ (2010年6月5日 愛知県知多郡阿久比町)
コモウセンゴケ (2009年6月6日 愛知県常滑市)
コモウセンゴケ (2009年6月6日 愛知県常滑市)
トウカイコモウセンゴケ (2008年7月6日 愛知県常滑市)
トウカイコモウセンゴケ (2008年7月6日 愛知県常滑市)

これらを見分けるのは慣れていないと難しいですが,もっとも簡単に見分けるには,葉の形を見ることです。モウセンゴケは葉が丸く,葉柄が長いことが特徴となっています。コモウセンゴケは葉がへら状で,葉柄は葉と区別がつきません。そして,トウカイコモウセンゴケはこの2つの中間の形をとります。

この3種を比べると,モウセンゴケとコモウセンゴケの中間の性質をトウカイコモウセンゴケが持っていることが分かります。たとえば,モウセンゴケは水に浸かっているようなところに生えますが,コモウセンゴケは比較的乾燥しているところに生えています。トウカイコモウセンゴケは,これらの中間の水分量のところに生えていることが観察されます。

トウカイコモウセンゴケは,東海地方から兵庫県の比較的狭い範囲に分布しています。では,この種はどのような起源をもつと考えられるでしょうか。

染色体を観察すると,それがわかります。モウセンゴケは,比較的大型の染色体を20本もっています(2n=20)。これに対し,コモウセンゴケは,小型の染色体を40本もっています(2n=40)。

トウカイコモウセンゴケの染色体を観察すると,60本の染色体があることがわかります。これは,モウセンゴケのものによく似た大型の染色体20本と,コモウセンゴケのものによく似た小型の染色体40本で構成されています。

この観察により,トウカイコモウセンゴケは,モウセンゴケとコモウセンゴケの雑種が起源であると推測できます。

さて,通常,このような雑種は1代限りで,子孫を残すことはありません(不稔性)。モウセンゴケの配偶子(n=10)とコモウセンゴケの配偶子(n=20)によりできた個体(2n=30)は減数分裂がうまくできず, 正常な配偶子がつくられないからです。これは,減数分裂の第一分裂前期に,染色体が対合できないことによるものです。しかし,トウカイコモウセンゴケは染色体が倍数化している(2n=60)ため,減数分裂が正しく行われ,正常な配偶子がつくられます。

このように,雑種から新しい種が誕生することは,植物ではわりと普通に起きています。代表的な穀物であるパンコムギも,雑種起源の種であることが分かっています。

実際にモウセンゴケとコモウセンゴケが交配することはなかなか観察できませんが,自然交配したもの(2n=30)が宮崎県で発見され,ヒュウガコモウセンゴケと名付けられました。