愛知の文学

犬頭糸

作品書名時代地域
犬頭糸の由来(けんとうしのゆらい)
<参河(みかわ)の国に犬の頭(かしら)の糸を始むる語(こと)>
今昔物語集
(こんじゃくものがたりしゅう)
平安時代 三河

三河(みかわ)は和銅年間(708〜715)から絹織りを国営とし,上質のあしぎぬ(あらい絹糸で平織(ひらおり)にした絹織物)を調(ちょう)として納めていた。東三河の「赤引糸」は伊勢神宮の神衣(かんみぞ)祭に使われ,西三河の「犬頭糸(けんとうし)」は天皇御服料として貢献(こうけん)された。
表題の話は,西三河産「犬頭糸」の由来を伝え,あわせて「犬頭糸」をまつる犬頭明神の縁起となる説話である。養蚕の失敗で夫の愛情を失った妻に大切に育てられた蚕(かいこ)が,白い犬に,そして桑の木に乗り移って恩返しをする。妻は上質の絹糸を一手に所有することで,富と共に,夫の愛情も回復するのである。
当時の上糸生産十二か国の一つであった三河ならではの話であるが,『今昔物語集』に収められるだけでなく,絵巻物にも描かれており,都の人々にもなじみ深い話であったようである。